- 人事を尽くして返信を待つ -
【御子柴薫です 追加しました】
【よろしくお願いします】

三時間くらいかけて考えたこんだ文字を震える指先で打ち込んでいく。送信先はとなりの席の緑間くん。

入学式、緊張と不安でドキドキしていた私の席の横に座ったのは背の高い綺麗な人でした。目を縁取るまつ毛はどれも長くて涼やかな目は私の胸をいっそう高鳴らせた。自己紹介で知った綺麗な人の名前は緑間真太郎くん。


「薫ちゃんはもう部活決めた?」
「吹奏楽部! 高尾くんはバスケ部だよね?」
「あったりまえっしょ!」

同中出身で高校もクラスも同じこともあって親近感が湧いてる高尾くんと部活の話に花を咲かせる。
高尾くんは中学のときからバスケがすごく上手で親しみやすくて、男の子からも女の子からも人気だった。今だってちゃんと話すのはほぼ初めてなのに気軽に話せている。すごいなあ、運動ができて話が面白くて……高尾くんって完璧人間じゃないか。苦手なこととかあるのかな。意外にもピーマンが嫌いだったりとか……ないよね。

「あ、そろそろ体育館行かねーと。じゃーな!」
「頑張って! ばいばい」

楽しそうに教室から出ていく後ろ姿を見送る。私もそろそろ行かないと。
高尾くんはバスケ部だけど緑間くんは何部なのかな。おっきかったから運動部な気がするんだけど。でも緑間くんピアノとか似合いそうだしあんまり一生懸命運動してるところ、想像つかないかも。

部活にも無事に入ることができ、家に帰ってLINEを開くとクラスのグループへの招待が来ていた。参加を押して誰がいてるか見ていると真っ先に目に飛び込んで来たのは「緑間真太郎」の文字。緑間くんフルネームなんだ。
……追加していいのかな、緊張しすぎて心臓が飛び出しそうなんだけど。駄目。無理。できない。でも追加したい。自分の気持ちがもどかしくてしばらくベッドの上でころがる。

「大丈夫、落ち着いて。隣りの席だから追加するの、下心とかないから!!」

誰に向けてか分からない言い訳を一人でブツブツ呟きながら追加のボタンへ指を持っていく。画面に指が触れたのを感じてゆっくり目を開いた。

新しい友達
緑間真太郎

うわあ、うわ、うわあああ。み、みどりまくんが、緑間くんがお友達一覧に!!
な、何か送らないと、でもなにを送ればいいんだろう。よろしくとかよろしくとか!?

考えがなにも浮かんでこなくて気づいたときには三時間ほど経過していた。

「え、もう7時!? 早く何か送らないと!!」

焦りすぎて打ち間違いしながらも簡単なメッセージを打ち込んでいく。後は送信さえ押せば終わるんだけど

「それが一番むずかしいんだよね〜……」

チキンだから無理です。ああ高尾くんがいればボタン押してって頼めたかもしれないのに。あのコミュ力が欲しいよ。
けどいつまでも押さないわけにはいかない。目をつぶってボタンがある場所を押す。
ーー送ってしまった。緑間くんLINEなんか触るのかな。グループにいてるってことはLINEを見たりするとは信じたいけど……。


寝る前に確認した携帯の画面にうつってたのは緑間くんからの返信で。

緑間真太郎:よろしく頼む

その日は夜眠ることができず、入学早々に寝坊した私を緑間くんは不思議そうにみていた。