- おしるこ、今の私にはそれしか考えられない -
「え、な、なんで!?」

ない、ない、ない! どこにもない、学校には絶対必要なあれが。昨日塾に行く時抜いたから? もしかしたら鞄の中のままーー

「はあ、ついてないなあ……」

このままだともう直ぐ行われる席替えも最悪の結果になるかも。それはダメ、ぜっったいダメ。
緑間くんみたいにラッキーアイテム持ってくるべきなのかな。でもあれはちょっと目立ちすぎるんだよね。緑間くんみたいな美人さんは目立ってなんぼだけど私みたいな平凡女は平凡に過ごさないと。

「どうかしたのか御子柴」
「ひょえっ!? あ、えっと、その、筆箱忘れちゃってどうしようかなーって……」

ひょえってなに私! ああもう恥ずかしい。緑間くん絶対変だって思ったよ。引かれたりしてないよね。多分いま神様に捨てられてて新しく拾われるのを待ってるんだ、うんそうしよう。

「俺のを使うか?」

前言撤回、嘘です、ごめんなさい神様、愛してます神様。

「いいの!? 借りたい!」

自分がすっごい笑顔なのはわかる。だって高尾くん遠くですっごい笑い堪えてるもん。見ろ私は緑間くんに鉛筆を貸してもらえるんだぞ。

「ペンが必要な時は声をかけてくれ」
「うん! そうさせてもらうね!」

そう、これは憧れのアイドルからファンサをもらったような宝くじを当てた時のような、そんな気持ち。簡単にいうと超絶幸せなのです。

「緑間くん赤色かしてもらってもいいかな」
「ああ」

これが授業中に緑間くんに話しかけることができる幸せ。なんて素晴らしい、高尾くんにはできないという、この圧倒的優越感。


「なんか今日薫テンション高いね」
「ふふふー、わかるー?」
「えーなになに 、彼氏ー?」
「秘密ーー」

この感動は私だけのものなのだ。あ、なにかお礼とかしようかな。緑間くんの好きなものはおしるこ、ならお返しはおしるこに決定ではないか。いざ行かん自動販売機へ。

「おしるこゲット」
「あんたそんなの飲むわけ? 趣味わる〜」
「トモちゃんには分からなくていいんですー」
「なんだとー!」

ほっぺを伸ばされるのは地味に痛いよトモちゃん。
買ったはいいが問題はいつ渡すかだ。お昼休憩に渡すのでもいいんだけど高尾くんがいるから論外。部活後に渡すのはストーカーぽいからダメ。そもそも私にも部活がある。となると放課後に渡すのが最善? あれ、でも部活一緒に行くから高尾くんいるんじゃ。

「薫あたしって今日掃除ー?」
「えーー自分で見てよー」

トモちゃんは掃除当番だったかなあーーん、高尾くんが掃除当番!? 今日は私DAYなの、そうなの。これで計画は完璧、早く放課後にならないかな。

「あ、トモちゃん見るの忘れた」
「なにしに行ったんだあんたは」
「あいたっ」


放課後、いよいよ作戦決行時間。おしるこの用意は完璧。後は渡すだけ、行くぞ薫!

「あ、あの緑間くん今日はかしてくれてありがとう!」
「いや大したことじゃないのだよ」
「それでこれお礼って言ったらなんだけど」

あ、緑間くん嬉しそう。かわいい。

「いいのか?」
「いいんだよ!」
あなたにもらって欲しくて買ったんですから!
「すまない、有り難くもらう」

その微笑みはダメだ、私には刺激が強すぎる。こんな近くで緑間くんの美しすぎる微笑みが私に向けられるなんて。この世に未練はない。嘘、あります。

「真ちゃんおしるこだろー?」
「もう持っている」
「は? ストック? おしるこ好きすぎだろ!!」
「違うのだよ!! ……御子柴に貰ったのだよ」
「その話詳しく」