- 鉛筆こそ正義なのだよ -
刻々と時間を刻む時計に「止まれ〜」なんて無駄なことを願いながらどこにでも売っている普通の鉛筆を転がす。鉛筆が示した番号は3。私の予想は1。どちらを信じるか、御子柴薫、ただ今悩みに悩んでいます。

そもそも何故私が鉛筆にテストの答えをかけているかというと理由は二つ。私が理科系が苦手だということとこの鉛筆が緑間くんにかしてもらった、ものすごいパワーを秘めている鉛筆(らしい)ということだからなのです。

「緑間くんどうしよう…生物が絶望的です」

テスト期間には僭越ながらも緑間くんに教えてもらったというのに次の日には殆ど忘れてるというお気楽な私の頭!
涙目で絶望している私に緑間くんが困った顔をした。あまりの希望のなさに緑間くん困った顔までかっこいいとか今日のラッキーアイテムは昆布なんだとか現実逃避を始めてしまう。

「……御子柴、これを貸してやるのだよ」
「鉛筆……? 私シャーペンあるよ?」

緑間くんが差し出してきたのは緑色のまさに鉛筆って感じの鉛筆だった。私には緑間くんが何を考えているか分かりません。


◇◆◇◆◇


「はよーっす」
「はよ。高尾見てみあれ」
「おー?」

昨日夜遅くまで起きていたせいでクソ重い瞼を開けて立川が指した方を見ると予想通りというかーー真ちゃんと薫が居た。最近は特に思うが薫は割と運が良い。これがおは朝の力……俺は信じねーけどな。

「いやー薫の気がしれないけど見てると楽しいわー」
「分かる……えっ!?」
「おいおい高尾。私が何年薫の友達してると思ってるんだよ」

これが幼馴染のなせる技、テレパシーというやつか。

「きゃートモちゃんかっこいいー」
「知ってる」
「そんな素晴らしい力が!?」
「うおっ!」

教室中に響いた声の主はまさかの薫だ。クラスの全員が一斉に薫の方を向いた。しばらく呆然と真ちゃんの方を見ていたが自分の状況に気づくと顔を真っ赤にさせながら席に着いた。

「心読まれたかと思った……」
「薫のあんな大声初めて聞いたわ……」

真ちゃんといてる時の薫は若干おかしくなる。テンションは普段の1.5倍は高くなるし必ずニヤニヤしてる。あれで気づかない真ちゃんは相当の鈍感だ。

「多分あの鉛筆だな」
「鉛筆?」
「答えを当てる魔法の鉛筆だぜ」
「なにそれ私が欲しい」



採点され返ってきた生物のテストの結果はあんまりって感じだった。まあ俺の得意教科は英語だからいいんだけどな……多分。

「ねえねえ高尾くん生物何点だった?」

珍しく底意地の悪そうな笑顔を貼り付けて薫が喋りかけてきた。

「ぜってー良かったパターンだろ! 見せろー!」
「気がすむまで見るとよろしい!」
「80点だと……!?」

とてつもない存在感で堂々と80の文字が書かれている。記述の間違いが多いが生物のテストは毎回選択問題が多い。

「選択問題全部合ってんじゃねえか!」
「えへへー」
「やっぱすげえな真ちゃん!!」
「当然なのだよ」

なんでもなさそうな顔してるけど、この俺の鷹の目はごまかせないぜ真ちゃん。

「ほんっっとにありがとう緑間くん!!」
「ああ」

そんな嬉しそうな顔してバレバレだろって思ったけどこいつら両方鈍感だったわ。

「真ちゃんなにニヤけてんだよ〜」
「ニヤけてなどないのだよ!!」

なんか俺の応援がなくても上手く進みそうでつまんねえー。やっぱり恋愛に障害はつきものだと思うんだよな俺は。