- お前の言葉がいかに衝撃的だったか教えてやろう -
少し潤んだ大きな瞳。風が吹けば使っているシャンプーの香りだろうか、いい匂いと認識する程度の甘い香りがする。その砂糖菓子みたいに甘い顔に微笑まれてしまえばたいていの男は堕ちるだろう。否、何人もの男の心を奪ってきたのやら。しかしその全てを一心に注がれている羨ましい男は彼女の恋心には全く気づかず、朴念仁を通り越してもはやアホだ。
端的に言えば、薫にマジでかわいいライバルが現れた。俺は今とてもわくわくしている。

「やめて高尾くん! 私のライフはもうゼロよ!」
今にもそう言い出しそうなほどに悲壮な顔をしている目の前の彼女はとても小さく見える。
真ちゃんの周りにあの子が現れだしたのは今から一週間前のことだ。なんでも体育が一緒だったらしく怪我をした彼女を真ちゃんが保健室まで連れて行ったとかなんとか。そんなことであんなに可愛い子に惚れられるなんて全くもって羨ましい。

「もうダメだよ高尾くん。さよなら私の青春」
「いやいや諦めるのはまだ早いだろ! 真ちゃんは馬鹿だから全然気づいてねえしまだワンチャンある!」
「ワンチャンだけ!?」

グワっと手を広げて迫ってくる薫の気迫には眼を見張るものがある。試合中の火神にも引けを取らない気迫だ。

「そりゃ緑間くんはかっこいいし優しいし良いところしかないけれど。それを知ってるのは私だけでいいのー!!」
「あーはいはい」

まさか相棒の素晴らしさを聞かされる羽目になるとは思っていなかった。俺としてはどちらとくっついても文句はないが入学式から一途にあのおは朝信者を想い続ける薫が負けてしまうのはいただけない。

「顔も性格も頭も負けててどうしたらいいの。私のアドバンテージなんて隣の席くらいしかないよ」
「いや逆にそれだけあれば十分じゃね? 逆に」
「なんの逆ですか高尾くん!」

特に解決策も見つからずそろそろ真ちゃんの掃除が終わる時間かなーと時計を見たと同時にドアが開いて噂の人物の御登場となった。薫は机に突っ伏していてどんな顔をしているかは分からない。

「……御子柴は何をしているのだよ。気分が悪いのか?」

俺を待たせたことよりも薫の心配ですかそうですか!
薫は真ちゃんに話しかけられてビクッと肩を震わした後ノロノロと顔を上げた。こんなこと口には出さないが前髪がボサボサでなかなかに酷い顔をしている。

「緑間くん……」
「なんだ」
「私って緑間くんの友達だよね?」
「ぶふぉっ!」

違うだろそうじゃないだろ。ほら真ちゃんだって、すっげえ困ってるじゃん。面白すぎる。

「あ、ああ。そう、だな……? 急に何を言いだすのだよ」
「ちょっと高尾くんに親友自慢をされて緑間くんの友達としての自信を失ってるだけだから気にしないで」

その理由はさすがに無理がある。なんかもう悟りの境地を開いていそうな雰囲気だ。薫が真ちゃんほったらかしで話を進めるなんて珍しい。

「そうか……」
「緑間くん」
「今度はなんだ」
「私緑間くんのこと大好きだから」

一瞬薫が何を言ったのか理解できなかった。自分が何を言ったのか理解していないのか薫は一度深いため息を吐いた後「部活行かなきゃ。高尾くん緑間くんまた明日」と言って教室を出て行った。

「真ちゃーん? おーい聞こえてるー?……マジかよ薫」

顔を真っ赤にした195cmの高校生男子と二人きりで教室に残された俺の気持ちを誰か考えてくれよ。