キミはダレか




「わたしはね、ルフィさんのものなの」

久しぶりに聞いた声で告げられたのは、思ったよりも残酷な言葉だ。
彼女の名は、#name#。この船にいる誰よりも先にルフィの誘いを受けた人物である。それなのに、彼女は戦いに参加することもなければ、オレたち他のクルーと話すこともしない。仲間と呼ぶには、些か異質の存在だった。
ルフィに聞いてみても、何も得られることはない。アイツは彼女のことについては一切触れない、話さない、教えない。


「#name#、ちゃん」
「わたしはルフィさんと出逢って、初めて自分の意識を」
「なあ、#name#ちゃん。キミは一体、ダレなんだ?」

そう問えば長く白い髪を靡かせながら、オレへと駆け寄る。タタっと軽い音を立てて、まるで存在しないかのような

「わたしは#name#。ただ、それだけ」

伸びてきた細い腕が首に回されて、思わず身体が震えた。小さな笑い声が耳元で聞こえて、酷く恐怖を感じる。ツーっと、背中に冷汗が流れた気がした。

「ルフィさんはわたしのことを話さない。そういう約束だから、絶対に話せない」
「...」
「可哀想なルフィさん...。でもわたしにもどうにも出来ない。これはわたしの意識なのに、自由が効かないの」
「それ、って。どういう―」
「...時間切れ。ルフィさんのこと、責めないでね。ルフィさんはは、彼は被害者だから」

言い終わるとすぐに回されていた腕が解けた。
そして、少しバツが悪そうに微笑んだ。


「ルフィさん」
「#name#!!」
「おかえりなさい。相変わらず、泥だらけですね」
「そうか?ふつうだぞ?」




初めてまともに会話ができたというのに、結局彼女がダレなのかは分からず終いだ。逆に、分からないことが増えてしまったようにも思える。



「...ナミさん」
「不思議よね、あの子。ゾロでさえルフィに問うのを躊躇ってるんだもの。でも、そばにいて嫌な感じがするわけでもない。むしろ―」
「心地良い」

そう、そうなのよ。と、ナミさんが頷く。

「あの子のそばに居ると、懐かしい気持ちになって。無性に泣きたくなる。いかないで、って。縋りたくなる」
「...オレも」
「わたしだけかと、思ってたわ」
「」



不意に、彼女がオレたちのほうへと振り向いた。すぐ隣でナミさんが息を呑むのが分かった。



「なあ、ナミさん」
「...馬鹿なこと考えちゃダメよ」