夜明けの船尾


朝早く起きてしまうのは、昔からの癖だった。
辺りはまだぼんやりと薄暗く、濃い霧が立ち込めている。船尾の手すりの寄り掛かりながら煙草をふかしても、煙は真っ白な霧に消えていく。
少し首を後ろに傾けると、僅かだが海面が見える。小さく揺らめいている海面に、輪郭のハッキリしない自分の姿が写った。

「...ちっぽけだなァ」
「人間が?それとも、サンジさん自身が?」

二日続けて声を聞いたのは初めてだった。

「いつだって人は孤独なんだ。親がいて、友達がいて、仲間がいて、同志がいて。それなのに人は、孤独から抜け出すことができない」
「#name#ちゃん...」
「一人でいるとね、人は孤独だって安心するの。それは所謂いっときの休憩...そしてまた孤独から離れようとすれば、不安と絶望に陥る。この世界はね、必ず対になっているんだよ」

彼女が何を言いたいのか、オレには理解できなかった。脈略もない言葉を淡々と口に出し、


「孤独っていうのは、言うなれば自分を美化するための武器。自分自身を」
「...#name#ちゃんは孤独なのかい?」
「うん。孤独だよ。わたしはいつだって自分を美化していたいから」
「ルフィが、」
「ルフィさんが?」
「#name#ちゃんには、ルフィがいるじゃねぇか。いつも、必ず一緒にいるだろ」
「」


「死の番人って知ってる」
「死の番人...?それって、もしかして」


「そう。死の番人にはね、契約主がいるんだよ。死の番人は突然この世界に誕生して、死の番人同士はお互いを認識できない、独りぼっちの存在。だから、自分の姿を死人に」
「...そんな存在が本当にいたとして。#name#ちゃんは」
「さあ、わたしには分からない。」


「まさか―」
「わたしが、死の番人」