ある少女の大きな秘密

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こうなってしまったのは、誰のせいか。それを考えたところでわたしが元の姿に戻れるわけもなく、漂流していたわたしを拾って。少なくともわたしは今、大好きな人たちのいる世界に生きているのだから。いや...正しくは生きてはいないけど。


小さく溜息をついては、ゾンビ化したことだけが夢だったらいいのにと無意味なことを願ってしまう。
視線を落として自分の身体を確認すると、程よく日焼けしていた肌は雪のように真っ白だ。肌の下の血管が薄っすらと見えていて、今の姿は如何にも死人。手のひらで腕を摩ってみても温かさを感じない。ポケットから鏡を取り出して覗いてみれば、ソコには血色のない自分の顔が写っている。黒かった髪も真っ白に色が抜けてしまっていて、イメチェンどころの話ではない。
変わってしまったのは外見だけではない。今の私は常に空腹で、食べたいという欲求で生きているような気がする。
その欲求の先にあるのは人間の肉、その中でも心臓と脳ミソが食べたくて仕方が無いのだ。そう、つまりこれはそういうこと。断言はしたくないし信じたくもないが、わたしはゾンビになった。

そんなまさか、なんて思う。しかしこれは現実である。頬につけられた引っかき傷から感染したようで、その傷は今も治っていない。それどころか、治る兆しすらなくその傷口から垂れてくるのは、ゼリーのように凝固した冷たい血だ。

「神様ひどい、ひどすぎるううう...。わたしまだ20歳なのに...!ゾンビになるなんて死ぬよりも酷い!!しかもみんなに会う前にゾンビになるなんて...」

ああああ、と唸り声が口から洩れた。ゾンビになってから数日は経っているが、未だに絶望は消えない。そもそもこれからの人生どうなるかの前に、どうやってこの悍ましい島から脱出するか、それを考えなければならない。
わたしを攫った海賊たちがどうなったのかは分からないが、きっとわたしの存在は忘れていることだろう。




「...臭くないのが唯一の救いだ」

歩き疲れて小さな岩に腰を下ろす。
少し遠く見える屋敷からは、楽しそうな歌声が聞こえてくる。この数日の間に、どうやらスリラーバーク編は幕を閉じてしまったらしい。どうせなら近くで見たかった、と後悔したところで



「キミ、は...」
「へ...」




「!その怪我...大丈夫かい?!」
「えっ、あ−」
「すぐチョッパーに見せねえと...!」
「え、え?!」

言うや否や、金髪の彼は跪いて、腰を下ろしていたわたしの膝裏に手を差し込んだ。と同時に背中にも手が回されて一瞬の内に身体が浮いた。

「ごめん、ちょっと我慢してね」

困ったように眉を下げる彼に、



「おい!チョッパー!!」

まだ距離があると言うのに、彼の声が聞こえたようだ。
振り返って首を傾げているのが見える。




「!どうしたんだ、この傷っ」
「えっ、あの」


「ちょっと、サンジくん!この子誰なのよ!」
「い、いや...誰なんでしょう?」
「はあ?!分からないで連れてきたの?!」
「は、はは...すまねえナミさん。森ん中に一人で座っててさ、怪我してたもんだからほっとけなくて、つい...」



「おいナミ、誰だそいつ?」
「さあ、誰なのかしらね。サンジくんが、血相変えて抱えてきたのよ。ほんっと、女の子に弱いんだから!」
「おいおい」






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