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釣りをしているルフィさん、ウソップさん、チョッパーさんを横目で見ながら時折空を見上げる。甲板に大の字になっている女子ってどうなんだろう、と薄れる意識の中で考える。
今こうしている経緯を思い返せば、未だに夢なのではないかと信じ難い気持ちでいっぱいになって、どう言えばいいのだろうか...。嬉しさは勿論なんだけど、でも、わたしがこの世界にいることがいいことだとは思えなかった。

ある日突然、玄関のドアを開けたら浮遊感に襲われ、気が付けば海に真っ逆さま。人間、本当に怖いと感じると声も出ないというのは事実だった。落ちていくスピードのせいでまともに息もできず、わたしは海に叩き付けられる前に気絶した。
現在進行形で痛む左腕は、生まれて初めての骨折だ。目を覚ましたら目の前には




あれから数日、わたしはこの麦わらの一味と共に空島への手掛かりを探すためにジャヤを目指していた。

「釣れたァ!!!」
「大物か?!」
「おおおおっ!ルフィすげぇ!」

バシャッと水の跳ねる音がしたと思えば三人の歓声が同時に上がった。
何が釣れたんだろう、気になって仕方がないけれど全然身体が言うことを聞いてくれない。小さく「あー...」と声を漏らしたが、それは騒がしさの中に虚しく消えていった。
深海魚とかが釣れてたらどうしよう、目玉が飛び出してるようなグロテスクな魚は食べたくないなあ...。あ、でもサンジさんなら凄く美味しく、それでいて綺麗に調理しちゃうんだろうな。

「って、これゴミじゃねぇか!!」
「なにいいいっ?!ちくしょー!今度こそサメ釣れたと思ったのによー!!」
「えええっサメ釣るのか?!」

どうやら、釣れたのはゴミだったようだ。
こんな広い海で小さなゴミが釣れる確率なんて多分、ものすごく低いはずなのに。さすがはルフィさんだ...!と心の中で静かに尊敬の意を唱える。あれ、でもそれって尊敬することだっけ...?
ぼやけて見えていたルフィさんたちがついに見えなくなって、太陽の暖かさにただただ眠気が増すばかり。もういいや...寝ちゃおう、そう思ったときガチャっとドアの開く音が聞こえて、コツコツと綺麗な足音と共に小さな振動が身体全身に伝わってきた。

「...ち、ゃん」

完全に閉じて閉まった瞼は中々に開いてくれない。静かに名前を呼ばれた気がしたけれど、それに反応することはできなかった。
そして、瞼から透ける陽の光が僅かに遮られた。

「ミアハちゃん...?」

サンジさんだというのは声で分かっている。
それに、勿論のことちゃんと声も聞こえている。ああ、でも、きっと。
起きたら覚えてないんだろうな...と、少し残念に感じながらわたしの意識は完全に






「おやすみ、マドモアゼル」

そう告げて、起こさないように気を付けながらスーツの上着を大の字になっているレディに掛ける。僅かに身動ぎをしたものの、完全に眠りについているらしい。
好奇心からその顔を覗き込んでみれば、小さな口を半分ほど開けて可愛らしい表情で昼寝をしていた。無防備すぎやしねぇか、と心の中で思いながらもついつい、その姿を眺めてしまう。

ある日突然、空から降ってきた少女。
海に落ちたのを助けたのは、このおれで。船へ引き上げてみると、僅かに腫れ上がった左腕が見えた。この船の全員が心配する中、目を覚ました彼女は驚いた表情を浮かべて、「ワンピース...」と言葉を漏らした。





「...いい夢みてね、ミアハちゃん」

せめて、一時でも。
穏やかに過ごして欲しい。