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2016.08.20 Sat

本編ほったらかしてこんなアホなこと考えてるから本編進まないんですよね。
これも手詰まったのでとりあえずここだけでもアップ。書き終えたらテキストに移動します。
腐ネタ有 ギャグ風味

スペグリーンがイケメンすぎて何か書きたいと思ったが収拾がつかなくなった話


「グリーン先輩ってさあ……性欲あるのかな」

 何気なく呟いた言葉に隣でコーラを飲んでいたゴールドが吹き出した。

「う゛おぇ! ごほっ!」
「うわっ、きたな!」
「オメーのせいだろ!!」

 唾が飛び散らんとする勢いで反論してくる相手にあーごめんごめんと形だけの謝罪をしておく。一頻り咳き込んだ彼は回復したのかじと目で「で、なんでンなこと考える発想に至ったんだ?」と尋ねてきた。一応、話を聞いてくれるらしい。
 フレンドリィショップで購入したカップ飲料の中身をストローで吸い上げごくりと嚥下してからいやだってさあと口を開く。

「図鑑所有者に選ばれ、若いながらもジムリーダーに就任する実力! クールで常に落ち着いた性格! そしてあの美形! ついでにオーキド博士の孫、つまりいいとこのボンボン! これだけの優良物件を女の子がほっとくわけないのに浮いた話一つ二つ聞かない!!」

 指折り数えて力説する私へゴールドが「浮いた話二つもあるのはどうかとオレァ思うぜ」と至極真っ当なことを言ってきたので軽くシメておいた。

「で、浮いた話一つも聞かないのはどういうことなんだろうって私は思ったのね」
「あぁ……そうかよ」

 力なくうなだれる相手を余所に私は話を続ける。

「私の考えた案は三つ。一つ目、実は彼女がいる。マスコミとファンを欺いてお付き合いしている女の存在がいるから浮いた話を聞かない。二つ目、そこらの女に興味がない。グリーン先輩理想高そうだからね、何処にでもいるような量産型の女には興味なさそう。三つ目、実はホモ」
「オイ最後先輩にメチャクチャ失礼だからな!?」
「仕方ないじゃん! 真面目に考え抜いた結果、女自体興味がなくて男にしか反応しないってなったんだから!」
「どう捻りゃあそうなんだ! グリーン先輩にシメられっぞ!」
「ちなみにお相手はレッド先輩が怪しいと思う」
「やめろぉおおおお!!」

 ゴールドが尊敬するレッド先輩を例に上げた所為か、頭を抱えて蹲ってしまう。丸まった背を軽く叩きながら「で、続きだけど」と言うとまだ続くのかよとげんなりとした声が返ってきた。

「グリーン先輩ってさ、すごいストイックじゃない? そういうところが余計、性欲薄そうっていうか淡白そうに思えてさあ」
「…………」

 ゴールドの返事が終ぞ潰えてしまった、南無。まあ良い、元から私の零した独り言だから相槌とか返事とか期待しちゃいない。

「付き合った女の話なんて聞いたことないし、あの人に性欲自体あるのか不思議で不思議で」
「ほう、随時面白そうな話をしているな」

 掛けられた、聞き覚えのある声にびくりと肩が揺れ掌の中のカップ飲料がぐしゃりと音を立てて潰れる。唇が引きつったまま油の切れたロボットのような動きで振り返れば途中、顔面蒼白のゴールドが見えた。

「俺がなんだって? もう一度お聞かせ願おうか」
「グ、グリーン先輩……」

 紡がれる低い声は耳元で囁かれたら腰が砕けると評判で、毎朝のセットが大変そうな特徴的な髪型は真面目さの中に遊び心が入っているようで良いと女の子達から人気で、すらりと伸びた長身が私達を見下ろしている。いや遠回しに表現せず直球に言おう、私がしていた下卑た話題の中心、グリーン先輩がそこにいた。逆行で表情が読めないが、いつもより声が数段低いのが末恐ろしい。気分は宛ら蛇に睨まれた蛙だ。
 何故、カントー地方に住んでいるはずの先輩が、ジョウトに。
 私の疑問を感じ取ったのか溜め息混じりに「ラジオ塔で収録していた」と簡潔に返す。

「ぁ、な、なるほど! そっかー、先輩忙しそうですもんね! ラジオ塔で収録だったんですかそうですかー! じゃ、私はお忙しいところを邪魔しないようお暇しまぐえ」
「逃がすとでも?」

 引きつり笑いを浮かべながらベンチから立ち上がり後退りしようとしたが胸倉へ素早く伸びた手によって阻まれた。胸倉から襟首に持ち替えられそのままずるずると引っ張られる。

「ひぃいいい! ちょ、ゴールド!! 黙って見てないでアンタ助け──」

 両腕を伸ばし必死に助けを求めるが私が声を上げた瞬間、ゴールドは力なく首を横に振った。貴様、私を見捨てるのか!
 後ろからはさっさと歩けなんて声も聞こえるし哀れ、気分はドナドナされる子牛である。果たして数時間後の私は生きているのだろうか。



 街行く人達の訝しげな視線に晒されつつ私と先輩は段々人気のない所へと向かう。まさかこの先でボコられるのではなかろうかと戦々恐々しながら大人しくついていくと路地裏に入ったところで漸く襟首を解放された。締め付けられていた咽喉が解放され回り出す酸素に咳き込みながらシャツが伸びていないかと後ろ手を回し確認する。

「…………そういえば、どこから聞いていたんですか?」
「俺が女に興味がなく、男にしか反応しないというところからだな」

 うげえ、聞かれたら一番ヤなとこじゃん。
 そうですかあはははーとカラッカラに乾いた笑みを浮かべては所在なげに視線を彷徨わせる。どうしよう、この空気。
 私の背をゆうに越える相手から見下ろされ威圧感を半端なく感じる。それはもう、肌に突き刺さるくらいに。
 襟から手を離しどうしようとぐるぐる考え込む。逃げるか? 前方には先輩、後方は壁、左右は薄暗い路地。この辺りの地理は私の方が知っているだろう。右は今来たところだから少し走ればすぐに道が開ける。左は裏路地の奥へ進む為グネグネと入り組んでいる、撒くなら。

「──左、だろう」

 左だ、と地を蹴り進んだ身体、それと同時に落ちる声。その意味を耳が捉え読まれていたと驚愕に瞠目した瞬間どんと何かにぶつかった。視線を落とすと先輩の右腕が見える。反射的にぐるりと後ろを向き駆け出そうとして、止めた。此方は左腕が壁に手を付いている。
 客観的に見れば先輩の両腕の中に私が閉じこめられていることだろう。わあ、なんて少女漫画展開だ。全然嬉しくない。

「さ、流石師匠……です」

 逃亡を諦め肩の力を抜けば逃げる意はないと感じ取ってくれたのか両腕が壁から離れる。「この辺りの地理はお前の方が詳しいだろうが、視線の動きに気を付けろ。バレバレだ」と有り難いお言葉を頂戴した。

「……で、なんだってこんなところに連れ込んだんですか?」
「馬鹿弟子が阿呆な勘違いしているようだから正してやろうと思ってな」
「教え熱心ですね」

 もう私は弟子じゃないんですけど、と零しながら息を吐く。有り難いことに私は一月前までグリーン先輩の元でポケモンバトルを学んでいた。スパルタ過ぎる教えに長期間耐え、大丈夫だろうと漸くお墨付きを貰い巣立ったというのにまだご教授いただくのか。今度はなんだ?

「俺に女の影がないと言うが誰の所為だと思っている」
「……先輩の性癖?」

 答えた瞬間、間髪入れず頭を叩かれた。かなり、否、とてつもなく痛い。手加減くらいしてくれたっていいじゃん!
 呆れたように深く溜め息を吐いた先輩がお前の所為だと言う。私の所為? Why? 何故!?
 私の不服げな顔を見て、お前が四六時中俺の予定関係なしに張り付いていたからだと続けた。返された言葉に思い当たりがありすぎてぐ、と詰まる。
 ポケモンバトルの右も左も分からない頃。私はお恥ずかしながら二年程前まで自分のポケモンを持ったことがなかった。幼なじみであるお隣の、ゴールドのポケモンは触らせてもらっていたけど私自身のポケモンを持つなんて考えたことなんてなかった。事情が変わったのはゴールドが図鑑所有者になり事件に巻き込まれた時。私は事後報告でしかアイツがどんな大変な目に遭い、どれ程苦労したのか知らなかった。幼なじみなのに、危ない時に駆け付けることが出来ないなんてと自分の無力さを知った私はポケモンを持つことを決意し、友達のクリスちゃんに指南を仰ぐなら誰が良いか相談したところグリーン先輩の名が挙がり、はるばるジョウトからカントーへと弟子入り修行しに行ったのである。ポケモンに対して何の知識もない私は親鳥の後ろを追い掛ける雛鳥のようについて回った。当時、頼れるような人はこの人しかいなかったからだが。

「つまり、私が師匠の恋路を邪魔していた……!?」

 驚愕の事実に眼を丸くする。そんな、私の所為で師匠が男に走ってしまったなんて……痛っ!

「阿呆なことを考えているようだから訂正するが、眼の離せない不出来な弟子の世話が手一杯で色恋に現を抜かす暇がなかっただけだ」

 不出来な弟子とは十中八九私のことですね、すいません。
 叩かれた頭をさすりながら小声で謝る。師匠の元で指導を受けることになって薄々と気付いていた、私がポケモントレーナーに向いていないということくらい。タイプ相性を考え、出す技を瞬時に判断し、その場に合った指示を出し、相手の攻撃を読みその裏を掻く。ポケモン勝負というのは頭脳戦だ。その場にあるあらゆる可能性を読み、利用する。土地や気候が良い例だろう。
 私はそれが苦手だった。目の前のことに対応するのが手一杯で先を読むことが出来ない。故に、相手が打っていた布石に気付かず敗れることが多々あった。二年という長い歳月を掛け漸く普通のトレーナー程に頭を回すことが出来るようになったがその代償が師匠の生活なのは言うまでもないだろう。言葉通りの“暇がない”。ジムの仕事にカントー最後のジムとして他のジムリーダーを束ねる役割、弟子の面倒エトセトラエトセトラ。


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