性描写注意


 はっ、は、と短い二人の呼吸音が静謐な空間に小さく響く。ベッドのスプリング音も額から零れ落ちる汗も煩わしい。自分を見下ろす伏見の格好はカッターシャツのボタンが数個外され、スラックスの前が寛げられているだけである。反して私の格好はというと身に着けていたケーブル編みのニットカーディガンもバイカラーのブラウスも合皮スカートも全て剥かれ生まれたままの状態でシーツに沈み伏見を受け入れていた。眼鏡のないその顔は酷く幼く19歳という年齢を肯定させる。
 そうだ。まだ19歳なのだ、この少年は。
 仕事もそつなくこなし若い年齢で部下を持つ少年は日頃の言動と態度、思考回路の所為で大人気な印象を与えるがそれでも人生を19年しか生きていない。こうして私の上で律動する彼はまだ幼いのだ。
──勿体無いよなあ。
 酩酊する意識のなか思う。本来なら優秀な頭を持つ彼は大学へ進学し伸ばしていくべきだと思うのに。高校も通っていなかった、と以前耳にしたことからその思いは強くなる。生死に関わるセプター4に所属する理由が私には解らない。彼はもっと青春を謳歌すべきだと思うのに。こんな年上の女を相手にするのではなく同年代の可愛らしい子と放課後を共にしたり休日を過ごしたり。彼ならそれが容易い筈だ。それなのに何故。
 視線を上げると伏見と交わった。訝しげなその視線に曖昧な笑みを浮かべることで誤魔化す。カッターシャツの隙間から覗く鎖骨に付けられた徴は元吠舞羅の証。その徴に手を伸ばしかけて、止めた。肌を重ね合わせることはあっても想いを重ね合わせるような温かく純粋な関係ではない。所在無げに浮いた私の手は落ちてシーツを掴む。齎される快楽に意味を成さない吃音が口腔から零れ出し間断無き律動に彼の限界が近いことを悟る。短い呼吸音の後薄い膜越しに膣内に彼の精が弾けたのを感じその瞬間私も絶頂へと追いやられる。一瞬飛んだ意識は彼の引き抜く感触で引き戻され朦朧な視界で彼を眺めた。
 手際良く膜を括り塵箱へ投げ入れるのを見て勿体無いな、と胸中に思う。彼の優秀な遺伝子が実を結ばす朽ち果てていく。私との非生産的な行為は快楽を分かち合うだけで生み出すものは愛でさえも、ない。
──本当、勿体無い。
 何故私となのかなんて解っているけどもし私じゃなく互いに懇意し合っている相手だったら。この媾合も、遺伝子の塊も残骸にならず意味を成すというのに。

'13.4.6

それでも僕等は繰り返す

AiNS