眺めるだけで満足していた。
「人類最強」と呼ばれる彼はその名に恥じない強さを持ちその姿に恥じない佇まいをしている。彼は私の憧れであり頂点、そして恋愛対象だった。
 気品ある姿に凛とした表情、そして圧倒的な強さ。言動に難はあるものの、私からすればその口の悪さも格好良いと思う要素の一つである。恋は盲目とよく言ったものだ。
 彼に恋慕を抱いている私だが、特別作戦班に属していない為彼に会えるのは皆無に等しい。例えお目に掛かれたとしてもその姿は遠く、後ろ姿か横顔ばかりである。
 正面から見たい。許されるのならお話をしてみたい。
(……なーんてね)
 私は一介の調査兵団員。特に目立って秀でているところなど何もない、平凡な団員が兵士長に近付けるなんて思ってはいない。
 ――だから、こうして眺めるだけでいい。
 そう言い聞かせ、右手を心臓に当て直立不動をしたままリヴァイ兵士長の刈り上げられた頭を見詰める。遠退いて行く姿を見詰める色めきたった眸を周りが放つ羨望の眼差しに隠した。

'13.06.09

心を埋め尽くす欺瞞

AiNS