俺、ちょっと遠い高校行くわ。

そう銀時に告げられたのが学校からの帰路。
いつも通り私の定位置となっている銀時の自転車の荷台に乗り夕日を背に巫山戯ながら風と温もりを感じて帰宅する日常だった。シャツを握る手先から伝わる体温、髪を乱暴に撫でる風、視線を上げれば銀時の綿飴みたいな髪が太陽に反射して琥珀色に輝くのを少し見惚れながら軽口を叩き合い笑い合う、そんな平凡だけど何処かきらきらしていた日常。
そんな日常が、銀時の告げた一言で終わりを迎えてしまうのか。

そっか、と呟く。
何処か期待していた。銀時も私も平凡な高校に行って其処でも今までと同じような日常を過ごすんだ、と。いつも通り教室で莫迦やって帰り慣れた道を巫山戯て。そんな日々を銀時も望んでいるんだと思っていた。
いつもと違う声色で答えた私に気を遣ってか明るい声色で話す。

「ンな辛気臭い声すんなって」
家近ェしいつでも会えンだろ。

「……、うん」
少しの空白の後に返答しながら目の前に在る背中に額を押し付けると直ぐにいつも感じる温もりが伝わってくる。どうした、と訝しげの声が届き何でも無いよ、と呟いた。
少し遠い高校でも銀時はこの町に居る。会おうと思えば何時でも会える距離。其れでも高校という生活を経ていつも隣に並んでいた銀時が何れ足早になって遠くへ進んでしまうんだろう。間近で見てきたこの背中も逞しくなって何時の間にか遠くへ感じてしまうんだろう。

そうやって出来る距離に私は耐えられるのだろうか。

其処まで考えると何だか遣る瀬無い気持ちになり皺くちゃのシャツを握る指先に力を込めた。

望んでなんかいない

AiNS