メモ


『遊んでるんだって』
「ヤスが?」
『そう』
「女の子と?」
『女の子で』

冷めてしまったスープを飲み干して、ごちそうさまでした、と言って手を合わせた。

「へー」
『へーって…』

あからさまに怪訝そうな顔をした友人がわたしの様子を伺う。

『…いいの?』
「なにが?」
『何がって…何とも思わないの?ヤスくんが色んな女の子と遊んでても』

信じられない、とでも言うように乗り出してくる彼女に少しだけ押されるように私は口ごもった。

「なんともっていうか…そりゃあ、嬉しくはないけど」

ヤスが誰と遊んでようと、わたしは彼の彼女な訳じゃないし、何も言えない。
ヤスと一番仲のいい異性の友達だってことには自信があった。でもまあ、こんな噂を聞いたんじゃ、そんなもろい自信なんて跡形もなく崩れ去るわけで。
別にヤスとセックスしたいわけじゃないし一線を越えるのが友達として深い仲なんだとか言いたいわけじゃない。ただ、私の知らないヤスを誰かが知ってて、それが大層大きな一面なんだからもう自分はヤスのことを何も知らないんじゃないかと思ってしまう。




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「松岡?どないしたん?」
「なんでもない」

「なんでもないことあらへんやん」
「避けてるやんか、ずっと」

「避けてなんかないよ。…勘違いなんじゃないの?」

「なんやねん、その言い方」
「俺なんか松岡にした?」
「なあ、なんか気に障るようなことした?」

「言うてくれんと分からへんやんか」
「なあ、ちょっと待てや」




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「隠さなくて、いいよ」
「…なにが?」
「知ってるよ」

「…松岡、待ってや、勘違いやねん」
「わかってるって」

ヤスが、よくこういうことしてるってこと。

「…………」
「……………」

沈黙が二人の間をぬるりと抜けて、私は少し泣きそうな顔に変わっていく彼の顔を見ていた。
それが、あまりにも、いつも通りで。


「いつから?」


いつから知ってた?
高めの声。好きな声。昔から聞いてる声。この声でたまに歌う鼻歌が好き。少し間延びした話し方が好き。私の名前を呼ぶ柔らかくて優しい発音が好き。困った時に小さく漏らす『うーん』の音が好き。笑った時の声にならない声が好き。

好き。

ヤスが好き。

本当は、否定してほしかったのかもしれない。
どこかで、ヤスがそんなことするはずないって、あのヤスが、そんなことするはずないって、信じてたのかもしれない。

「あーもう、ほんまかあ」
「…松岡にだけは、隠しときたかったなあ」
「誰に聞いたん?自分で気付いたん?」

「俺のこと、嫌いになった?」
「そらなるよなあ。軽蔑するよなあ」
「なあ、もう、嫌い?」
「答えてぇや」
「松岡」
「松岡?松岡ちゃーん」
「あは、なんやの、呆れて声も出せへんくなった?」
「心外やなあ、これでも松岡のことは大切にしてきたつもりやったんやけどなあ」
「松岡ちゃーん」
「なんか言えや、なあ」
「…松岡、俺のこと好き?」
「…好き、やった?」

なんでそんなこと、聞くの

「俺は、好きやで」
「好き、むっちゃ好き」


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みたいな





ミガッテ