流行りの言葉で言えば壁ドン。というこの状況を、どうすれば抜け出せるのだろうか。

「だって先輩、彼女いるじゃないですか」

私が押し返す力とちょうど釣り合うように身体を近づける。違う、少しずつ近づいてきている。顔が覗き込めば喉の奥で悲鳴が上がりそうだった。慌てて顔を背けて押し返す力を強くする。

「んふ、そうやね」
「そうやねって…」

でも 好きになってしもたんやもん。
そんな可愛く言っても、私は騙されてなんかやらない。
長身のこの男には、可愛くって器量のある彼女がいて。私はただそんな2人を見つめてることしかできないただの後輩で、芽生えた瞬間失恋確定。そんな恋だったのに。

「先輩、それは良くないと 思います、けど」

あと私は傷つきます。そういうの。
なんて言葉は飲み込んだ。彼が私の顔を無理やり自分の方へ向けさせたから。

「わかってるって、そんなあほちゃうよ」

何がしたいんだろう、この人は。もう私の抵抗はほぼほぼ意味ないところまで身体は近づいていて、なのにキスするわけでもなくただ閉じ込めている。

「俺のことは、好きになってくれへんの?」

好きじゃない、この笑顔。余裕綽々、そんな顔。私が好きなのは、くしゃくしゃに笑う先輩の笑顔なんですよ。残念だったな。

「残念でした」

短くそう答えると彼は
「そうかー、ちょっと自信あったんやけどな」
なんて笑顔を崩さず漏らした。好きじゃない。やっぱり好きじゃない、その顔。低い声も、はっきりした顔立ちも、眠た気な目も、柔らかい雰囲気も、くるんと遊んだ毛先も、好き になんてなってやらない。

「努力するしか、ないか」

意味深な言葉。
直後に押し付けられた唇に溶けて、私は眉をひそめた。
キスさえ、好きじゃない。ちくしょうめ。





ミガッテ