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このままだとジェノスが何しでかすか分かったもんじゃないから早急にコイツを引き剥がし、急いで服を着て机の前に座る。
すると二人も釣られるように机を前にして座ったからやっと落ち着いた心地になれた。

「えーと、まずは」

「イケメンの紹介早く」

「……こいつはジェノス、ちょっと前に押し掛けてきて以降一緒に住んでる」

俺の言葉を切ったことで一瞬ジェノスの雰囲気が嫌な感じに変わったが、催促されるがままに先にジェノスの方の紹介をした。あんまこういうの慣れてねーけどまぁ、コイツのことだし名前さえ判れば適当に何とかするだろ。

「あと弟ではない。んでジェノス、こいつが」

「ジェノスくんっていうんだー!! いいねとてもイケメンだねかっこいいねジェノスくん、名前までイケメンじゃん」

名前を聞いただけでまぁたコイツは勝手に盛り上がる。
別に俺はもう慣れたもんだから気にしないけど、せめて互いの自己紹介が終わるまで落ち着けないもんだろうか。
その勢いのまま歳はいくつかと聞かれたのでまぁ答えてやろうと思ったが、

「…あれ、お前いくつだっけ?」

「19です先生」

そうか19だったか。若いなって確か前に聞いた時も思った気がする。
しかし勝手にハラハラしてたけど思ってたより普通っぽいジェノスに少し安心した。

「そっかそっか19歳かー、いいね華の10代!青春真っ盛り!そして何よりこのイケメン!! サイタマの友達なら私も顔見知り程度には仲良くなりたいしお姉さん頑張っちゃうぞー!あっ私はヒイロって言います、歳はサイタマと同じ25歳でもうそれなりに付き合いは長いかなー」

手を組んでキャーってしたりいきなり腕を挙げたりかと思えば正座して礼儀よく挨拶したりで見てる分には飽きねーし明るさ吹っ切れてるしで好感は持てるんだけどなぁこいつも、ただ押しが強いし普通にセクハラしてくるしで初対面の相手には色々と誤解されそうなところがあるのも確かだ。
俺だって初めてこのテンションに遭遇した時は戸惑ったし現にジェノスの様子が少しおかしい。

「ところでジェノスくん、さっきサイタマのこと何て呼んでた?」

「先生と呼んだが」

「…何かの生徒さん?」

「おいそんなちょっと状況の把握に困ってる微妙な顔でこっち見んなよ」

何か飛び火来た。
これはあれだ、ヒイロのことだから多分『教師と生徒、禁断の関係!? 学校ではそんな素振り見せなかった二人なのにあろうことか同棲しているところを同じ学校の生徒に目撃され…!?』みたいな安いテロップが出てる顔だ。

「サイタマ…もしかしてジェノスくんとそういう…?」

「ほらやっぱりそんな感じの事考えてる目だ!!ちっげーよ!!」




「…という訳で俺は先生に命を救われ、その強さに惹かれて弟子入りさせてもらったんだ」

誤解を解くためにジェノスに得意な長ったらしい話をさせてやった。
俺はその間漫画読んでたけどあれだ、飯まだじゃん。その話飯の時とか後とかでもいいじゃん。でもその話させたのは俺だからちょっとだけなら我慢しよう…。
とか何とか漫画読みながら考えてたけどどうやら話は終わったようで、ジェノスの「以上だ」の言葉で俺も現実に戻った。

「お、おう…なんかすごい壮絶な話を聞いてしまった…イケメンはやはり何かしらの業を背負って生まれ出でるものなのかつらい…」

ヒイロはヒイロでなんかめっちゃ面倒そうなテンションに…いつもの事だったわ。

「でもそっかぁ師弟かぁ、サイタマが誰かを指導する側ってのがやっぱり違和感あるけどいいねぇロマンだねぇ、ジェノスくんは真面目で頑張り屋さんなんだねぇよしよししてあげよう」

とか何とか言いながらヒイロが伸ばした腕が避けられていたのにちょっと笑ったが、ここでまだこいつのペースに戻されては飯がいつになるか分からん。
逃げられた事に対して「あらっ」と声を上げるヒイロに声を被せるようにして俺は腹が減ったともう一度ジェノスに訴えた。
ジェノスは俺の言葉を聞くと謝罪しながら弾かれたように立ち上がり台所に向かってくれたが、鍋の中のものを温めながらヒイロにも要るのかと聞いてきた。

「おおおイケメンの手料理とかめっちゃ食べたい…でも私にはさっきスーパーで確固たる意思で手中に収めたオムライスが…おおおイケメンの手料理…イケメンが料理作って待ってるとか言ってくれなかったサイタマまじ恨む…」

「知らねーよ」

変な責められ方に果てしなく理不尽を感じたわお前ジェノス好きだなもう…。
床に両手を付いて顔を伏せながら「要らないです…有難う御座います…」ってめっちゃ悔しそうに答えててちょっと悪いことしちまった気にすらなったわ。
だがしかしそこでヒイロ、ばっと効果音が付きそうな勢いで顔を上げた。

「私のオムライスは!?」

「さっき廊下に落としていた袋じゃないのか?」

廊下に落としてたのかよお前。
俺が思わず心の中でつっこむとヒイロはすぐに廊下に向かい、間もなく中身の入っているであろうスーパーの袋を手に持って戻ってきた。

「あったどーーー!!!」

「良かったな」

「うんうん、さすがジェノスくんだよ何でも知ってるよ」

「はいはい良かったな」




「ところで先生…とヒイロ、さん、は、どういった関係なのでしょう?」

やっとのことで飯にありついて黙々と食べていたらジェノスの奴がそんな事を聞いてきた。
どういう…どういう?
口を動かしながらヒイロの方を見てみると、ヒイロも同じような考えなのかもぐもぐ口を動かしながら此方を見ていた。
…そうだなぁ…、

「良い言い方で幼馴染み、ドライに言うなら腐れ縁?」

腐れ縁というには仲も悪くはないと思ってるが一応相手も女だし変に誤解をさせるような言い方はやめた方がいい、と思っての選択だったが普通に友人と答えて良かった場面だったよな今の。

「腐れ縁だなんて酷いなサイタマ、私はアンタのことこんなに思ってるのに」

「じゃあお前はどう思ってんだよ?」

「…腐れ縁かなぁ…」

これがギャグアニメなら俺とジェノスで転けてるところだった。
いや、まぁ、俺も人のことを言えないんだろうとは思うがお前もそんな奴だよな…。
昔からの顔馴染みとはいえそこまで突っ込んだ仲でも無かったはずだし、何か気が付いたら話が合ったり考え方が似てたりでこんな付き合いになってしまったが。
…昔のこと思い出そうとしたけどめんどくさくなってきた。後のことはコイツに任せて俺は飯を食おう。





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