かぢをたえ ゆくへもしらぬ

 何か、妙な視線を感じるとは思っていた。
 けれどそれも今更のことのように思えたから、特に何をするでもなく放っておくことにした。
 何せ波由流は、如何に勤務中の息抜きポイントを増やすかに仕事のやり甲斐を見出すサボり魔アルバイターである。もっとも、本人はサボり魔と言われたら「こうして企業のブラック化が加速するんですね」と突っぱねるが。少なくともこの職場の勤務体制はそこそこブラックであるので、適度な休息は意地でも捩じ込むべきだろう。
 ともかく職員にそういう意味で睨まれるには心当たりがありすぎたので、気にも留めていなかったのだ。



 何やら毛色が違うなと気付いたのは、それから少し経った頃だった。

 何処か探るような……もっと言えば、突き刺さるような。カミツキから向けられるそれとも違う敵意を孕んだ目が、何処からか向けられている。

 さすがにこれは異常だと、不自然ではない程度にさっと周囲を見渡すと、あからさまに此方を鋭く睨めつける視線とかち合った。張りのあるスーツをかっちりと着込み、高い背をヒールで更に高くした女性だった。

 目が合った彼女は不機嫌そうに顔をしかめると、そのまま無言で踵を返してしまったので、結局その日も鋭い視線の原因は解らずじまいだったのだが。



―――



「千鳥波由流、貴様に用がある。着いてこい」

 襲撃の真っ只中、件の彼女は目の前にいた。
 前線に向かうカンナガラの見送りも一通り終え、避難区域で後方支援にあたっていた時、彼女に引き止められたのである。

 相も変わらず、その双眸には射殺さんばかりに剣呑な光が湛えられていた。
 何処かでこの人の恨みでも買っただろうか。言葉の端々から漏れる棘をまるで隠そうともしないのだから、波由流はこの数秒間で辟易としてしまった。
 しかし従わなければ、それはそれでもっと面倒な目に遭いそうなのは想像に難くなかったので、大人しく着いていったのが数分前のことだった。


 ところが、言われるがまま人気の無い場所に連れ込まれ、彼女が此方に振り向いた瞬間。
 じりじりと目の裏を焼くような熱が生まれると同時に、背骨の表面を冷たい何かが這い上がるような感覚が走った。

「さて、率直に問おうか。千鳥波由流」

 彼女が一歩近付くごとに、気味の悪い感覚は増していく。それは未だに慣れないけれど、波由流にとっては嫌というほど見知ったものだった。気付いたところでほとんどどうしようもないのが憎たらしい。

 最悪な予想ばかりがますます思考を占めていく。彼女の唇が開くのが、やけにゆっくりと感じられて、そして。


「貴様はこの襲撃を知っていたのではあるまいな?」


「――――は、?」

 一瞬、虚を突かれた心地だった。本当に一切心当たりが無かったのだ。

「えっと……どういうこと?」
「此処まで来てとぼけるか? ふ、良いだろう」

 口の端を僅かばかり歪めた彼女は、追い詰めた獲物を見やるかのように、すうと目を細めた。

「私は網代あじろ一乃紀ひのき、情報部所属だ。数ヶ月ほど前、波汲様からとある情報を賜ってな。ああ驚いたよ、貴様がカミツキに荷担するような内容だったのだから」
「っ待って、何それ。本当に知らないんだけど」
「『あの人たちのことは、どうか内緒にしてあげてね。おれたちのこと、助けてくれたんだから』」

 それは確かに、あの回廊で、波由流が波汲の分裂体に向かって発した言葉だった。
 一字一句違わず紡がれたそれに息を呑む。思ってもみないところから心臓を突き刺された心地だった。

 波汲は全て話していた。波由流が内緒にしてほしいと言った、その事実すらも。彼女は「そう在る」神なのだから。ただ運悪く、波由流がそれを知らなかったというだけの話だ。
 人と同じように言葉が通じるのを知り、少しずつ心を通わせてきたから、当たり前のように神に人としての倫理を求めてしまった。浅はかだったのだ。

 脳味噌がガンガンと鈍痛を訴えて顔をしかめそうになったが、平静を取り繕うのが得意な波由流は、やはり何てことの無いように涼やかな表情を作ってみせた。変に顔色を変えて後ろ暗いことがあると思われてはたまらない。

 大丈夫、感情を殺すのは、慣れている。

「……確かに、そんなことも言ったね。でも荷担ってほどでもないでしょ。相手はおれたちを見逃してくれた上に、治療までしてくれたんだよ」
「ふん。その程度の、たった一度きりの行動でカミツキに絆されたのか?甘いな。相手も手負いだった。明星様が共にいらしたのであれば、十二分に討ち取れていただろうに。貴様は後に訪れる脅威を放置したのだ。荷担と言わず何になる」
「だからって、恩を仇で返せって言うの?それに、おれがひとめちゃんに言ったことを知ってるなら、あの人達がずっと対話する姿勢を見せてたのも知ってるよね。誰一人欠けずにあの場を凌げたのは、明星さんが強いからってだけじゃない。彼等が真っ当な善性を備えた人間だからだよ。それが解るなら、カミツキだろうと無闇に手に掛けるのは違うでしょ」
「では、この状況は何だ?」

 指し示したかのように、一乃紀の背後から、コンクリートの砕ける音が響いた。不安にどよめく人の声が、此処にまで届いている。

 一乃紀の言いたいことを正しく理解して、波由流の背筋に汗が伝った。

「さ、すがにそれは、飛躍しすぎじゃない?あの人達がやったって訳じゃ…」
「貴様が対峙したカミツキは、回廊の深部で術者の砦を担っていたそうじゃあないか。如何にも重用されている者の役割だな」

 ――要するに、そんな人が関わっていない筈が無いと、言いたいのか。

 絶句した。オーバーヒートを起こす勢いで処理速度を早めていた波由流の頭は、しかし悲鳴を上げるばかりで、反論を弾き出してはくれない。

 それでも、信じていたかった。彼女が提示した推測がどんなに信憑性の強いものだとしても。自分が普段から適当な理屈を並べ立てて煙に巻く人間であっても。
 その時ばかりは、感情で彼等を測っていたかった。

 だって、自分と変わらない形の愛を抱いた人を、どうしてそう疑えるだろう。

 ――――大切な人がいるの……俺とお揃いだね。

 自分よりはいくらか年下だろうか、小柄な少年の、柔らかく細められた目が脳裏に過ぎる。
 カミツキとしての白い姿と、平凡な店員としての黒い姿を、頑なに結び付けさせようとしなかった子供。
 だからこそ解る。きっとあの少年も、こんな争いなど望んでいないのだ。

 ああ、あの店は、まだ無事でいるだろうか。

「――とはいえ、こんな推測に意味は無い。こうして事が起こっている今、此処での議論には等しく価値など無いのだ」

 一乃紀の言う通り、今となっては尽くが無意味だった。故に波由流が何かを言い返すのも待たず、一乃紀はあっさりと引き下がる。

「貴様が単に愚かな人間に過ぎなければ、軽い忠告程度で済んだだろうに。だが今の話は、こうして貴様を疑っていることの、ほんの切っ掛けにすぎない」

 不用意な嫌疑は無意味に組織の亀裂を招く。
 カミツキを心底忌々しく思うも、カンナガラに忠誠を誓っている一乃紀は、波汲から情報を得たからと言って安易に波由流を問い詰めるようなことはしなかった。胸の底で激情を静かに燻ぶらせながら彼女がまずしたことは、波由流の身辺調査である。

 特別難儀することもなく、調査はあっさりと終わった。波由流の両親は、共にカンナガラに所属していた形跡があったのだ。父親の方が何やら派手にやらかしていたらしく、その時の資料がしっかりと残されていた。

「観世という名を知っているか」

 波由流は青みがかった瞳をきょとりと瞬かせた。さして心当たりは無いように思えたが、妙に耳に引っかかる。
 そうだ、何処かで、聞いたような覚えがあった。何処だったか。
 確か――――あの、向日葵畑で。

「観世家を継ぐ筈だった直系の長男、観世海遥は、当主となる直前に一族を裏切り、観世に仕えていた八十神を連れて逃亡した。一人の女性と共にな」

 ――――あんな家、滅んじまえば良いのにな!

 面布に覆われてなお晴れやかに映った笑顔は、今でもはっきりと思い出せる。
 あれほど恨みつらみを吐いていたのだ、家を出奔することはずっと考えていたのだろう。

「その女性の名は、千鳥小百合。知らないとは言わせんぞ」

 ああそうだ、そうだとも。よく知っている。

 ずっと波由流を守ってくれていた、世界で一番大切な、母の名前なのだから。

 波由流がカンナガラに所属すると決めた時、母はそれはそれは猛反対した。その裏には、母がカンナガラに残してきた諸々の事情もあったのだろう。

 母は結局、波由流を信じて折れてくれた。それが今となっては、こんな事態を引き起こしている。波由流は心底吐きそうだった。

「貴様のその千里眼、それは観世の目だろう。お陰で確信が持てたよ。貴様は彼等が成した子なのだとな」

 千鳥と名乗る、観世の長男によく似た風貌の少年が、千里眼を宿している。これ程解りやすい証拠も無かった。
 一乃紀が疑う前から――それこそ波由流がカンナガラに来たその瞬間から、観世を知る人間は波由流の出自など簡単に察していたのだろう。知らないのは本人ばかりだ。

「貴様を疑っている理由が解ったか?カンナガラに逆恨みした貴様の両親が、カミツキの発足に関わっていても何らおかしな話ではない。その子である貴様もまた、愛しい両親に倣いカミツキに与している……どうだ、然程外れてもいないのではないか?特に観世海遥は呪いに蝕まれていたというから、解呪と引き換えに従っているという線もあるだろうな」
「お父さんは、おれが小学生に上がった頃に亡くなったよ。カミツキの発足って十年前の話でしょ?カミツキに関わるにはギリギリ足りないよ」
「カミツキという存在が表で認知された、その最初の記録が十年前と言うだけだろう?一体どれほどの準備期間があったのやら」
「……それにおれの知る限り、お母さんの体に咬術の痕だって無い」
「ふふ。貴様の口から発せられた情報に信憑性があるとでも?」
「っああもう、じゃあおれの体を調べれば良いじゃん。おれがカミツキだって言うなら――」
「私が何時『貴様がカミツキである』と言った?貴様はまだ咬術を使用していないのだろう。だから本部に張られたカミツキ避けの結界にも妨げられること無く、カンナガラに潜り込めた。そしてカンナガラの八十神を、再び奪うつもりで居る」
「はあ?」

 波由流はいよいよ眉間に皺を寄せた。好き勝手に捲し立てられて積もり積もった不快感が、ぐるぐると胸の内を渦巻いている。
 これほどに抑えきれない感情が生まれるのは初めてで、だからこそ何かがおかしいと、何処かで警鐘が鳴っている。そんな僅かな思考すら奪うように、どす黒い感情が塗り拡げられた。

「だからこれまで勤務態度も疎かなばかりか、縁結びすら避けてきたのだろう?カンナガラに貢献する気など無いのだから。貴様が縁結びをする時は、咬術を使用する八十神の選定を終え、父と同じように八十神を連れて逃げる時だろうな」

 何も知らない人間が聞けば、なるほどそうだったのかと唸ったことだろう。それほど綺麗に辻褄を合わせてくるのだ。
 全くの言いがかりだというのに、波由流が今までしてきた行動の全てが、己の首を絞めている。

 波由流が縁結びを避けているのは、縁結びによって霊能者の力が増すと知ったからだ。苦い思い出ばかりが詰まったこの目の制御が完全に効かなくなってしまうのを、波由流はずっと恐れている。

 昔と違って、この目で誰かを助けられたこともあったかもしれない。実際、助かったと、言ってくれたこともあった。自分こそが確かにそれに救われた気がした。
 それでもたった一度や二度の経験で、これまでに散々刻みつけられた傷は、完全に癒えてくれやしないのだ。

 そんな言い訳も、目の前の彼女は、聞き入れてやる素振りすら見せないのだろうけれど。

「貴様と交流を持っている人間も、貴様に絆されてカミツキに寝返るかもしれん。全く……お陰で仕事が増える一方だ」
「っみんなのことは、それこそ関係無いじゃん!」
「どうだかな。貴様こそカミツキと全く交流が無いと言えるのか?甘い考えを持ったお前のことだから、両親のことが無かろうと彼等の手に落ちているのかもしれんな。人を人とも思わない、破壊と殺戮の限りを尽くす暴徒に少しでも気を許すなど、カンナガラの風上にも置けん」
「そんなのあんたの勝手なイメージでしょ。カミツキ全体の印象はそうかもしれなくても、それを一個人にまで擦り付けないでよ」
「それでその一個人に同情して、親交を深めたというのか?愚の骨頂だな」
「それの何が悪いの?仕事の話は一切してな、い、」

 咄嗟に口を塞いだが、そんなのは何の意味も成さなかった。


 今。


 今、おれは、何を言った?


「あ、え、?なん、」
「ふ、ふふっ、ははははっ!やはりそうか!ああ、本当に貴様は愚かだな」

 全身が震える。口元に触れた指先は瞬く間に冷え切っていた。

 カミツキと友達で怒られないのかと心配そうに伺うユナに、バレないようにすれば良いんだよ、と何時もの調子で答えたのを思い出す。
 ユナは嬉しそうに笑っていた。この関係性を続ける為にも、お互いに気をつけようと約束した。
 素直で正直で、誤魔化すのが下手なユナが、秘密を隠し通そうと頑張ってくれていたことはちゃんと解っていた。今までこうして誰にもバレずにいた結果が物語っている。

 なのに、おれは。こんな簡単に、口走ってしまった。

 ユナも、豊も。信じてくれたのに。何で。何で。

「しかし想定していたよりは口が硬かったようだ。ここまで術を強めることになるとは思わなかったよ。とうに常人が耐えられる域は超えているのだがな……そういう訓練でも受けていたのか?まあ良い」

 一乃紀が何かを言っているのがぼんやりと解ったが、今の波由流にはまともに聞き取る余裕も無かった。彼女の声が、随分と遠い。

 麻痺しきった脳がぐらぐらと沸騰して、平衡感覚が奪われたかのような酷い目眩に膝をつく。心臓が耳元に移動したのかと思うほどがなり立て、どっと汗が吹き出した。

「さて、そろそろ判決の時といこうか。なに、私も全く『甘さ』が無い訳ではない。慈悲をくれてやろう。由緒正しき観世の目を野放しにするのも惜しいからな」
「……おれに、なにを、させたいの」
「簡単なことだ。貴様が真にカンナガラに忠誠を誓っていると言うのならばな。貴様がこうして嫌疑を掛けられることとなった要因は、懇切丁寧に教えてやっただろう?」

 聖書において。
 神が罰を与え、秩序を保つために殺した人の数は、悪魔のそれよりも圧倒的に勝る。

「信用を得たいのならば、それ相応の誠意を示すべきだろう。千鳥波由流」

 どうにか見上げた彼女は、そんな女神のような、美しい微笑を湛えていた。


「貴様が隠しているカミツキの情報」

「千鳥小百合の身柄」

「八十神に関しても、知り得ることは全て」

「――即刻此方に差し出せ」


 こいつは。こいつはおれに、二者択一を迫っている。

 カンナガラと、それ以外の全てを、天秤に乗せやがったのだ。


「な、に、いって」
「無理に一度に達成しろとは言わんさ、何せこんな状況なのだからな。この中で緊急性を要するのはカミツキの情報か」

 ぐわりと脳が揺れて、喉奥から何かが引き摺り出されそうになる。そこでようやく、波由流は何かをされているのだと気付いた。
 だけどもう、呼吸のひとつでもしようものなら、この口が何を何処まで吐き出すか解らない。

 口を塞ごうとする波由流の腕を、阻むように一乃紀が掴んだ。まずい、まずい、まずい!!

「……っあ、だ、」
「さあ、真実を明かせ、千鳥波由流。貴様が知っているカミツキの名は、顔は、能力は、何だ」
「っ、ぅ、……ゆ、」



「ぐっ!?」

 我武者羅に振るった腕は、優位に立っていると高を括っていた一乃紀の足首を強く殴打した。すかさず立ち上がり、バランスを崩してたたらを踏む相手の脇腹を力の限り蹴り抜いて距離を取る。
 心臓が暴れ回る所為で、全力疾走したかのように全身が震えているというのに、波由流の動きは素早かった。きっと火事場の馬鹿力だった。

 荒く乱れる呼吸を整える暇も無く、波由流はウェストポーチから一枚の紙を引き抜いた。
 向日葵畑で父から貰った、いざという時の切り札。
 使い方は解っている。ただ霊力の操作をしなければならないので、暴れる感情を無理矢理殺した。目の制御の仕方を教わるより以前にやっていた、心臓をめった刺しにする方法で。

 血の通わない能面のような顔。黒々とした瞳。波由流が自覚することのない、無の表情。
 一乃紀はそれこそが、波由流の本当の顔なのだと勘違いした。

 霊符を両手で挟んだ波由流は、目を使う時と同じように、手元に霊力を流し込んだ。瞬く間に霊符は灰と化し、開いた手の中で青い炎が生まれる。揺らめく光の向こうに、一乃紀の驚愕する顔が見えた。

 波由流を取り巻くように立ち昇る光は、波由流の背後に巨大な目を描いていく。

 それが完全に形を成した瞬間、瞳を閉じるようにして、ふっと掻き消えた。


 波由流の姿すら、まるごと飲み込んでしまったように。


「消え、た?」

 一人残された一乃紀は、呆然と呟く。波由流がこんな力を持っていたことなど知らなかった。あんなに念入りに情報を集めていたというのに。

「……っ逃げたな!!千鳥波由流!!」

 怒りにわななき、奮い立つ足で地面を蹴った。
 このまま逃してやるものか。鋭く吊り上げた瞳に殺意にも似た光を宿し、足を止めることもないまま本部に連絡を入れた。あいつを捕まえるには、一分一秒でも惜しい。



―――



「――――なに、も、なんで」

 実際のところ、波由流は変わらずその場に居た。
 壁に背を預けてずるずると座り込み、必死に息を殺していた。

 他者の目を欺いて、認識を捻じ曲げる。それがこの霊符の効力である。
 一乃紀は目の前に居る波由流を、その存在の一切を、認識出来なくなっていたのだ。

「おれ、おれが、おれのせいで、みんな、おかあさ、」

 彼女が居なくなり、ようやくまともに酸素を吸い上げられた波由流は、無意識に独り言をぼろぼろと零していく。

「かあ、さ、おかあさん。まもらなきゃ、おれが」

 そうだ、何時までも此処で蹲っている訳にはいかないのだ。
 波由流が逃げたということは、次に狙われるのは、間違いなく母なのだから。

「にげなくちゃ」

 鉛のように地面に沈み込もうとする体を叱咤して、のろのろと立ち上がった。
 覚束ない足取りで、それでもどうにか前に進んだ。
 やがて調子を取り戻した歩調は、飛ぶような駆け足へと転じる。

 何でもいい。何処でも良いから、とにかく遠くへ。

 逃げなくては。



楫を絶え 行方も知らぬ

▼網代 一乃紀 + あじろ ひのき
カンナガラ。情報部所属。
カンナガラに忠誠を誓い、カミツキ淘汰主義の過激思想を持つ。
感情増幅と思考開示の術を波由流に掛けている。

▼千鳥 小百合 + ちどり さゆり
波由流の母。元カンナガラ。

▼名前や存在だけお借りした方々
波汲さん:@dake_nuka 何も悪くないですごめんなさい!!
イツキさん(死出蟲さん):@keito394 何も悪くないですごめんなさい!!
時雨くん:@kosame1820 何も悪くないですごめんなさい!!
明星さん:@FtemDm
朱留さん:@74_kikaku_47
ユナちゃん:@FtemDm
豊くん:@74_kikaku_47

箱庭