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――……さま…め………み…ひめ…――
「う…いた……」
また、あの声だ。
このところ、1日に数回ほど脳内に響くこの声が、名前子を悩ませていた。
少年のような、青年のような、あるいは少女や女性の様にも聞こえる声。
最初は気のせいかと思った。
しかし、毎日毎日、日を置かず直接脳内に響き、しかも声は日に日にはっきりと、大きくなっていく。
夜中に声に目覚めさせられた時は、さすがに異常だと確信した。
「………」
誰かに相談したかったが、あいにく名前子にそんな相手はいなかった。
両親は幼い頃死に別れ、育ててくれた祖父母とも数年前に他界した。
兄弟はなく、引っ込み思案な性格から親しい友人もできなかった。
名前子にとって唯一心を許すことができたのは、一年前に拾ってきた犬だけだった。
きっと自分はこのまま一人で生きて一人で死んでいくのだろうと思っていた、そんな矢先のことだった。
奇妙な声が彼女を悩ませるようになったのは。
――…み…さま……ひ…は…く……――
「いっ…(いたい…!)」
思わずその場に座り込む。
最近はこの声は痛みを伴うほどに名前子の脳を侵食していた。
「クゥン……」
飼い犬の真白がきゅうっと目を細めて心配そうに名前子の頬を舐める。
温かいその身にすがる様に真白を強く抱き締めると彼の鼓動がわずかに早まったのだが、名前子は気付かなかった。
「グルルルル…」
「…どうしたの、真白…?」
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