愛されたかった女と愛した男(宜野座)

※捏造あり


私は母子家庭の家の一人娘だ。父親のことは良く知らない。死んだとか離婚したとかではなく、この世界に犯罪者の予備軍として隔離されたからだ。今の世界ではこうした人間を潜在犯と言われ忌み嫌われた。何もしていないのに。母親は父親が潜在犯と知ると一方的に離婚を突きつけ新たな男を作り再婚した。私はついてきてもいいと言われた為母親と共に再婚した男と住まう事となった。そこから私の生活は地獄と化した。毎日新しい親達に潜在犯の子供と殴られ、蹴られ、罵声を浴びせられた。優しかった母親は私を汚物のように見下していた。その頃から、あれだけ離婚のとき濁っていた母親の色相が綺麗なライトグリーンへと改善されていた。新しい父親はどこかの会社のお偉いさんだっとようで仲良し家族として接待させられた。何か気に入らないことがあると裏でしつけという名の暴力を振るわれた。世間体から殺されるようなことはされなかった。自分が彼らのストレス解消のサンドバッグとして引き取られたのだと悟った。学校も潜在犯の子供とどこのグループに入れてもらえず一人だった。そんな生活をしていても私の色相だけは綺麗に保たれていた。勉強からすることがなかったから成績もよかった。そんな生活を続けて十数年、私は都内でも有名な高校への入学が決まった。もちろん家から通うつもりだった。しかし、私はすぐ近くの寮にひとり暮らしをかされることとなった。母親が狂ったのだ。

“なんでアンタの色相は綺麗なままなの?!笑ってられるのよ?!!そんな目でみないでよっ!”

再婚後あれだけ綺麗だった母親の色相は黒くくすんでいた。色々色相を保つためにカウンセリングやサプリメントを多用したらしい。久々にまともに見た母親の顔は色相のように黒く、骨が角張り、眼球が飛びてるくらいに膨張していた。あまりの母親の変わりように笑ってしまった。途端に母親に押し倒され首を締められた。すぐに義父が止めに入った(世間体をとても気にする人だからだろう)ことにより未遂に終わった。母親の担当のカウンセラーからの話だと義父に捨てられ路頭に迷ってしまう事を恐れた母親が私をストレス発散の盾として捧げるようになってしまい、その罪悪感にかられながらの生活が逆にストレスとなったのだろうとのこと。後に聞いたのだが苦しいというよりも可哀想にと思う気持ちが大いに上回った。その時だろうか、何もかもがどうでもよいと感じることしか出来なくなっていた。まるで自分は何処か違うところでゲームのように操られているような感覚。今思えばそうして自分を客観視することでしか色相をコントロールできなかったのだと痛感する。
高校に入り、私の生活は変化した。有名な進学校であることもあり潜在犯の子供と蔑まれるということは殆どなくなった。むしろ成績も色相も優秀な私はとても丁重に扱われた。初めて友達というものもできたし、彼氏もできた。それは表上のこと。実際は物欲もない常にニコニコしている上、成績もよかったことから都合のいい友達なのだろう。男もしかり。しかし男の場合は欲がない私は面白みがないらしく、告白されるが振られるのは私の方だった。“お前は俺の事好きじゃないだろ”振られる前によく言われた言葉だ。高校の短い間で何人もの男と交際したが好きという感情はない。告白され、付き合ってくれと言われたからだからだ。私にとって今までの生活と今のこの生活は特に大きな変化はないように感じた。そんなある日私は女友達と共にショッピングに行く予定だった。だったというのは連れてこられたのはショッピングもクソもない森の中だったからだ。女の一人が出てきてっと甲高い声を上げ、出てきたのはがたいがごつい男たち。どういうことかすぐに察知できた。女が言うには私がその女の男が私を好きになったから別れざるおえなくなったとか。モテるからって調子に乗るな。少し痛い目を見させてやる。女共は気持ち悪く笑い、男達は飢えた野良犬のように目をギラつかせ私を見た。私はそのまま無抵抗のまま服を引きちぎられ体を触られ続けた。そして下着の中に男の手が入ろうとした時だった。近くから聞こえるパトカーの音。すぐさま彼らは逃走していき、気づけばその場には私一人しかいなくなっていた。


「大丈夫か?!」
そう声を上げ、物陰から出てきたのは二人の青年。私はその二人を知っていた。同じクラスの宜野座伸宣と狭噛慎也。宜野座は近寄るといなや私の裸体を見て赤らめ目を背け、狭噛は表情をあまり変えず自分の上着を差し出し着せた。一礼し私はフォログラムを発動し何事もない服装になった。

「…ありがとう。狭噛君、宜野座君。あぁそうかあのサイレンはコンピュータハッキングしてそうなるように見せただけか。」

「あんたよく数分前に襲われたのにこんなに冷静だな」

「まぁ、」

「まぁ、じゃないだろ!襲われたんだぞ?!怪我は!」
冷静な狭噛とうって変わり、動揺を隠しきれない宜野座は私の肩を強く握り訴える。

「怪我はないし、触られただけ、砂まみれだけど問題ないわ。君達が助けてくれたからね」

「警察に行ってとりあえずセラピーを受けるべきだ!君の色相が濁っているかもしれない」

「それは大丈夫よ、私全然濁ったことないから」
そんなこと、と宜野座が口出すが私のデバイスの簡易色相チェックアプリを起動するとやはりライトグリーン。それを見せると宜野座達は驚きの表情を浮かべた。

「て、いうか君達なんでここがわかったの?」

「そっそれは…」
宜野座が急に顔を赤らめしどろもどろし始める。狭噛はすかさず言った言葉に私は初めてといっていいほど盛大に笑った。

「偶然今日宜野座とここのすぐそこのカフェにいたらアンタ達がここに入って行ってそのすぐにがたいが大きい男が数人そこに入っていったらそりゃ気になるだろ」

その後、警察に行き狭噛と宜野座の証言により彼女たちは捕らえられる事となった。それからというものの私は彼らと一緒にいることが断然多くなった。その後何事もなくわたし達は卒業を迎え、公安局に入ることとなった。私は二人と違う所属だったがそれでも私たちの関係は続いていた。しかしそれも長く続かなかった。“標本事件”…それにより狭噛は潜在犯となり私達とも違う存在になってしまった。宜野座はそのショックで塞ぎこんでしまった。その頃私は別件の事件捜査でとある女学院の講師の部屋にてその講師の身柄を拘束した。そこにはかれこれ狭噛や宜野座から聞かされていた標本事件で使われたであろう薬が保管されていた。どう考えても標本事件の重要参考人である彼は驚くことに犯罪係数は低く、我々は戸惑った。しかし彼は人の良さそうな笑みを浮かべながら私の先輩を殺し逃走しようとした。私達はドミネータのご作動と考え彼の身柄を拘束し本部に明け渡した。数日後に標本事件と共に事実が明らかになると思っていたがそうではなく、拘束した重要参考人は私達から逃走し行方不明として処理された。その頃から同じ班の執行官が次々に殉職していき、同じ監視官青柳はその日は公休であったため、あの事件を知ってる人間は私一人となった。タイミングを見計らったかのように私は局長に呼ばれた。

「何故呼ばれたのかわかるか?」

「いえ、」

「君は本当によくやってくれる。殉職した者達もさぞ鼻が高いだろう」

「ありがとうございます」

「君には真実を明かそうと思ってな」
局長はそう重たい腰を上げて私に口を開きかの事件の真相を告げた。つまりはこの世界には犯罪係数が低い場合でも犯罪を犯す者達がいるのだと。そして今回それが私たちが捉えた容疑者だった。これを世間に知られればこの発展した機能は破滅し世界は崩壊へと向かってしまうだろう。

「だったら何故私にそれを?」

「君がいろいろと調べていると聞いてね、先に釘を刺そうと思ってね」
つまりは変な動きを見せれば部下たち同様に私も執行されるということなのだろう。

「そういえば一係の中には学生の頃から親しい同期がいるそうだね。」

「一人は残念な結果となってしまったがもう一人はまだ健在で将来も有望だ。次の休みに二人で何処か気晴らしに言ってみたらどうかな」

「…っ」


「どうやら、相性もよさそうじゃないか宜野座監視官とは、」
局長からの言葉、それは当時の私には荷が重たいものだった。彼女は私に真実を告げた引き換えに、標本事件の真相を探る狭噛や宜野座の動きを監視し阻害しろというのだということはすぐに悟った。もし、それを私が拒めば口止めで私も彼らも命はないだろう。わかりました、私は局長に返事をした。
その後は宜野座といい仲となり、標本事件のことを彼から遠ざけた。宜野座は多忙なことや、忘れたいのか標本事件のことを時間の経過とともに話題にしなくなった。問題は狭噛だった。宜野座と違い着々と標本事件のことを彼なりに探っていた。彼は鋭いため偽装がばれないようにするのがいやはや大変であったが上手くなんとか偽装を続けた。それでも私のサイコパスは濁らなかった。もう親友と呼べる友を数年にわたり騙しているにも関わらずだ。


そんな私に変化が訪れた。



「お前達2係のこと、聞いた」
苦痛の表情を浮かべた宜野座の口から出た言葉は私の胸に突き刺さった。とうとうばれてしまった。恐らく局長が私の妨害工作が失敗したため宜野座に告げたのだろう。いつかはこんなことが起きるとは考えていた。


「そっか。じゃあギノとはこれで終わりだね」
こんな時が来たときは彼との最後と決めていた。彼もきっと私なんかとはいたくないだろうし、私がきっと耐えられなくなる、もう潰れてしまうだろう。こんなにも罪悪感に刈られて生活を共にすることは無理だった。こんなにも胸が苦しいのに私のサイコパスは濁らないのだろう。私はきっと誰も愛していないし、愛せない。


「貴方や狭噛を監視し動向を探り標本事件事件から遠ざけることが私の課せられた極秘任務。真実を知ったならそれも御仕舞い」

「…っ」
宜野座は私の冷たい言葉に押し黙る。私はさらに続けた。

「でも君との関係は仕事の一貫、これで君との繋がり終わり」
宜野座との思い出が甦る。互いに忙しいながらも時間を作り二人の時間を過ごした。彼との時間は他人に決められたものだとしても楽しいものであった。それは変わりはしない。だからこそもう終わりにしてやらなくてはならない。私と違って彼は優しい。だからこそ離れなくてはならない。彼が幸せになるために。


「…本当に言ってるのか」

「ええ、せいせいするわ」



「…この一年、いやお前との時間全てそう言えるのか?!お前はっ…俺はそんな、」

「……」

「俺はお前が好きだ、ずっと前から」
ギノの言葉に私の思考が止まった。


「お前は俺との時間、少しでも楽しいと思わなかったのか?!」
楽しかったと思う。ただ彼のためには私は悪者でいなければならない。唇が震え、ひどい言葉を連ねようとも言葉がでなかった。


「…さようなら」
だから私は宜野座の言葉を聞かずその場から立ち去る。名前を呼ばれた気がするが気のせいだ。そしてこの胸の痛みも、この涙も気のせいだ。大丈夫私はまだ笑える。濁らない。そう思っていた。


宜野座との破局から数日が経った。私は宜野座を極力避け宜野座はあれでは納得行かないのか時々なんとも言えない視線を向けてくるがあちらから何も動きがないため私は無視に高じた。部下、同僚からは破局の噂がすぐに流れている様子だった。多々部下の執行官から宜野座監視官浮気でもしたんですか?とキラキラした顔で問われた。端から見れば宜野座が何かやらかして、私がそれを怒り喧嘩している構図らしい。そーそーと安易に返答を流していると軽いですね!と部下に怒られた。理不尽だ。私は宜野座と別れてからも以前と同様に笑い生活をし、サイコパスも濁らないことに自分で自分を嘲笑った。なんて冷たい人間なのだろう。こんなことを考えてしまうことが酷く嫌で仕事ばかりに夢中になる生活が続いていた。



「はぁ」

「ずいぶん大きなため息だな」
多忙な仕事の一服するために自動販売機でコーヒーを購入しそこのベンチでため息をついたところで背後から聞き覚えのある声がした。振り替えると私が二番目に今会いたくない相手が目の前にいた。


「あら、忙しいのよ私。あなた方の上司と一緒で」
私はあからさまに嫌な顔をし嫌みをぶちまける。彼の穏やかな表情とこの様子だと彼はまだ標本事件の真相は知らないのだろう。むしろ、にやにやしている。理由はすぐに悟った。


「振ったんだってな」
やっぱりな。

「ええ、長く続いた方よ」

「本人達が納得してるなら話は別だがな」

「あの人納得してなかったの?随分過保護ね」

「あぁ、」
狭噛はきっとその件でいじると想定していたが、突如私の手を引っ張りベンチに押し倒し、私に跨がってきた。そしてたばこくさくて何を考えてるかわからない顔を私に近づけ、初めて目線を合わせる。これは、


「ちょっ」

「誰も来ないさ、アンタだって溜まってんだろ?」

「溜まってないわよっ狭噛待ってよっ」
まさかこんな日中に、親友と思っていた人間に襲われている。どうして、こうなってしまった。彼の目は本気のように感じた。抵抗している私を押さえつけブラウスの、ボタンを一つ一つ開いていく彼の手を払い除けようとしてもき耐え抜かれた彼の手を払うことができない。その時だ、私は咄嗟に助けを求めてしまった。ギノ、と。その途端に全く、払い除けることができなかった狭噛の手が止まる。そして私から離れ、背を向け、タバコを口に加え日をつけた。何がなんなのかわからず狭噛のことを睨み付けることしかできない。ふぅ、彼の口からタバコの煙が天井へ漂う。そして彼の言葉は些か私には残酷なものであった。

「なんだ、やっぱお前らまだやっぱり納得してないじゃないか」

「は?」

「、お前ちゃんとギノのこと好きなんだよ」

彼の言葉は私の胸に突き刺さる。当然だ、私は宜野座に助けを求めたのだ。認めざるおえない、私は宜野座が好きだったのだ。ちゃんと。それを認めさせるための狭噛の行動すべてが辻褄があった。私は彼にまんまと図られたのだ。彼は新人の監視官にその後は探しましたよと連れられていった。私はベンチでずっと座り込んでいた。その頃からだ私のサイコパスが緩やかに悪化していったのは。最初の頃は日内変動程度であったがそれが長く続き、ストレスチェックにも引っ掛かる始末。自分の変化に内心ほっとしていた。このまま続けば、私は潜在犯となりギノと離れることができる。

とある日のこと監視官との会議の後にギノに呼び出された。そのとき既に私のサイコパスは足を踏み外せば潜在犯となるところまでになっていた。今まで彼の誘いは幾度もあったが全て無視していたのだが彼もまた負けず嫌いなところがあり懲りずに私を誘ってきた。私が私でいられるのはこれが最後だろう、私は思いその誘いに乗った。仕事終わりに無言な二人は人の少ない子洒落なバーに向かい席につき軽いものを注文した。

「…」

「…」
店の人間は私達の関係はどうみえるのだろうか、と思うほど私達の空気は重たかった。ギノは何が言いたげだが何も言わず私はそれを待ち続ける時間が過ぎた。無言のまま料理とドリンクがテーブルに並べられ、意を決したように声を上げたのはやはりギノだった。


「…すまなかった。辛いことばかり背負わせてしまって。それで愛想つきたんなら、もう諦める。」

「…」
お前はどうなんだ、とギノは聞いてくるが私の返答待たずに更に続けた。


「俺はいつも狭噛やお前に支えて貰ってばかりだ。でも俺はそれでもお前と一緒にいたい。支えになりたい。」

ギノの私を見るその目が初めて嬉しいと愛しいと思った。

「私、ちゃんと貴方のこと好きだった、みたい」

「受け取ってくれるか」
久々にほっとし笑みを浮かべるギノ表情を見たような気がする。私もつられて笑った。それに初デートのようにほほを赤らめるギノは高級スーツの内ポケットから出した小さな箱、指輪。なんと教科書通りなプロポーズだろうかと更に私は笑う。しかし

「これは受け取れない。私もう少ししたら潜在犯になると思うわ。ほら、この数ヶ月でこんなに上がっちゃった。時間の問題ね」

「……それでも、いい」

「え、」
ギノは潜在犯を敵視する傾向があった。父親や親友も裏切られる形で潜在犯となったからだ。そして私もとなると彼が壊れてしまうような気がした。だからそれこそが私のケジメだ。彼のダメージは今が一番少ないと思ったからだ。しかし彼から放たれた予想外な言葉に私は言葉を失う。

「俺も同じだ。それにまだ決まったわけではない。それまではっ一緒にいて、くれないか?」
ギノが見せてきたサイコパスは私とさほど変わらないほど濁っていた。彼は弱さなんて見せない人間だったのにそれを私に見せてくる覚悟、私のケジメは一瞬で崩れた。彼といたい、共に過ごしたい、その思いをもう止めることができなくなっていた。


「…はい」
私はそう、ギノの手を強く握った。

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