金木犀の花嫁1



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私は怒られたり、苛められたり、苦しめられたり、世の中のそういう憂さ晴らしのために必要とされているのだから、家や学校で冷たくされたり苛められることは仕方のないことなんだ。私がいなくなったら皆は苛める人が減ってつまらないでしょ?って。
親はそんな私の面倒を見てくれるだけでもありがたい。

洗面所で顔の傷を眺めて今日のことを思い出した。

昼休みに学校を抜けろとクラスの子に命令されて、目隠しをされて、知らない男の人の声が聞こえて、車に乗せられた。どこかも分からない場所で、私は与えられる苦痛に耐えた。あれからどれだけ経ったのか時間も分からない。ぼんやりとした意識が徐々に戻ってきた。
「痛っ」
動こうとすると全身の傷が鈍く痛み始めた。
とりあえずここから出ないと、とドアノブを捻るが開かない。
「どなたか、開けてください!!!助けてください!」ドアに耳を当てても外に人の気配がない。
それでもドアを残っている力で目いっぱい叩く。
叩き続け、叫び続け、喉が痛くなり、声がガサガサになった頃、ガチャリとドアが開く音がした。

「おい、お前!大丈夫か?」

「た・・・た、すけて・・・」

その後の記憶はあまりはっきりしていないが、高校生らしき方に助けてもらい、家まで送ってもらったらしい。

ヒリヒリ痛む顔を洗い終えて、自分の部屋に向かう時、部屋の中からお母さんの声がした。

「あの子、何をしたのか知らないけどまた顔に傷作ってきて・・・。せっかく跡部さんから・・・・・・本人に送っていただくなんて、誤魔化しようもないじゃないの。それぐらいしか使い道がないくせに本当にタイミングが悪いんだから。」

私はまた何か悪いことをしてしまったんだね、お母さんごめん、と心の中で謝罪し床に就いた。


***

「景吾さん、そろそろ気になる子ぐらいできたんじゃない?」

大学進学を目前にして父さんや母さんは跡部グループの未来を背負って立つ俺様に良き家庭の良きお嬢さんと付き合ってほしいと願っているらしく、縁談話を振ってくるようになった。

「写真と嘘か本当か判別もつかない話だけ聞かされて気になる奴なんてできる訳ねぇ・・・」

「会わないから分からないんでしょう」

「写真でも興味がわかない奴に会っても興味がわくわけがねぇだろ。あ・・・ソイツ・・・」
俺は机に並べられた写真の中でつい最近見た顔をみつけた。

「あー、この子ね、顔に傷がついちゃったからって向こう様から断られちゃったのよ。傷ぐらい気にしないのにね。」

アイツは何故あんな所にあんな姿で閉じ込められていたんだ?あの後すぐに意識を失ってしまって事情を聞くに聞けなかった。持っていた物から名前と家を知って、俺はその後も用事があったので一緒に行けなかったが車で送らせた。アイツは今平穏に過ごせているのだろうか・・・。

「会う。」

「え・・・!?」

「名字名前に会う。」

「そう!?やっと気になる子ができたのね。そうとなったら連絡しなくちゃね。」


そして俺達は2度目の対面を果たすことになる。



20151202


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