小さい幸せみーつけた


トントントンー。

夕暮れ時、家の中にはそんな規制正しいまな板を叩く音とつけているテレビから聞こえる今日のニュースを告げるアナウンサーの声だけが聞こえる。

今日はちょっと寒いから温かいシチューと、それに付け合わせるサラダ。そんなちょっとしたメニューのつもりだ。
帰ってきたらどんな反応するかな。『うまそう!ね、まだ食べられない?』なんて言うのかな。想像しては自然と頬が緩む。

こんな時間がたまらなくしあわせだなって実感する。


「だーれだ?」

「……え、誰だろ」

「もー。分かっててそういうこと言うんだから」

「ふふ。お帰り、大ちゃん」

「だだいま。」



後ろからぎゅっと抱き締められて、耳の近くでちょっと低めな声で囁かれる。いつもは男性にしては高めな声なのに、こういう時だけ使い分けるそんな彼。



「でも、調理中は危ないからやめてっていったでしょ?」

「そうだけどさ。名前が迎えに出て来てくれなかったから」




ぎゅっと抱き締められる手に力が入れられて、肩口に顔が埋められる。話す度に吐息が肌にかかってくすぐったい。グリグリっと頭を動かして、拗ねる子犬みたいでかわいい。



「ごめん。考え事してたから気付かなかった。それに今日何時もよりも早いね」


そんな彼の頭をポンポンと叩く。


「今日そのまま直帰していいっていわれたの。結構家の近くだったから、連絡しないで帰ってきたんだ」

「そっか。ごめんね、まだご飯出来てないし、お風呂も用意してない」

「ううん。じゃあ俺、お風呂やってくるね」

「え?いいよ。大ちゃん疲れてるでしょ?」

「いーの!俺料理の方はあんまり手伝えないけど、掃除は得意だし、疲れてるのはお互い様でしょ。それにいつも名前に任せてばっかりだからこれくらいやらせて?」

「うーん。じゃあお願いします」

「はい。任されます」



上着やジャケットを脱いで、しゅるりとネクタイを外す。そして袖を捲りをヤル気満々の姿にくすりと笑みがこぼれる。



「あ!忘れ物っ」



それからは一瞬。おでこにちゅっと触れられた唇。すぐ離れて再度重なったのは彼のおでこ。



距離が近すぎて上手く見えないけど、伏せられた睫毛が長くて綺麗で、ゆっくりと開けられる目も綺麗で、熱を帯びたように少し濡れている。そんな瞳を向けてくるのはキスしたい1つの合図。

そしてそっと重なる温もり。

これもまた1つ、幸せ。



小さい幸せみーつけた
(なー!今日お風呂一緒に入ろ)




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