繋がれる勇気
「できた……」
「うん。すごく美味しいそう」
昔馴染みの蘭に手伝ってもらって完成したチョコレートケーキ。一人で挑戦しても思い描く通りにならなかったから、家事全般が得意な蘭に救いを求めると2つ返事で了解をもらって作り出すこと2時間。
やっと美味しそうなチョコレートケーキが出来て、思わず泣きそうになるのをぐっと堪える。
「わぁ!美味しそうだね」
「ふふ。コナンくんもありがとう」
「じゃあ名前!明日はがんばってね!」
「…うん」
そう意気込んだものの…やっぱりこの日になると怖じ気づくもので。
「名前おっはよー!」
「おはよう、青子。それに快斗も。朝からまた喧嘩?」
「はよ。」
「だって名前信じられる?快斗ったらまた今日が何の日か忘れてるのよ」
「はは…快斗もまた今時珍しいよね…」
「なんだよ。そんなの俺だって知ってるてーの。チョコ貰える日だろ」
渡す相手も相手で、バレンタインデーの意味をわかってなくてただこの日になると女の子はみんなチョコレートを持ってきていて、自分も貰えると思っている。
「あのね!」
「そうと分かれば早速貰いにいってくるか!」
「あっ!ちょっと快斗!」
靴をはきかえるなり、走っていってしまう快斗の後ろ姿を見送っていると隣で青子が盛大にため息をついた。
「なによ快斗のバカ…」
「青子は渡したの?」
「へ?わ、私があんなやつに渡すわけないじゃない!でも、1つも貰えないと可哀想だし、義理ならあげたけど」
「ふふ。はいはい」
「ちょっと名前!何か勘違いしてるでしょ」
「そんなことないよ。青子はかわいいね」
「絶対してるじゃない!名前は渡さないの?」
「私?んー。まあ、快斗はたくさん貰えるからいいでしょ。青子たちの分はちゃんと持ってきたからね」
ひらひらと手を振りながら教室に向かう私には「……快斗が1番受け取らないといけない相手は名前のなのに」なんて青子の言葉は聞こえなかった。
□
「へへへ。大量大量」
「はい。快斗」
「おっ!サンキュー!毎年毎年わりーな」
「毎年多いんだから袋くらい用意してくればいいのに…って毎年存在自体忘れてますね快斗さんは」
毎年この日に鞄の中に小さくして入れているエコバッグを快斗に渡して、教室を出ていくクラスメートに続いて私も出ていく。
「おい、ちょっと待てよ!」
「なーに?快斗ももう帰るの?」
「まあな。つーか、ん!」
慌ててそのバックにもらった物を詰め込んで私を追ってきた快斗は、先に歩いてた私の前に出て、わくわくと期待を膨らませる小さな子供のような表情をしながら手を差し出されて、思わず首を傾げる。
「名前も持ってきてるんだろ?ちょーだい!」
「ないよそんなの」
「えええっ?!」
スッと横を通りすぎる。そんな私を追いながら信じられないのかぐちぐち言ってくる快斗はほぼ無視だ。
「なあ〜名前ちゃ〜ん」
「あーもう!じゃあちょっとついてくる!」
帰り道、ずっと「名前ちゃんの意地悪」だとか「楽しみにしてたのに」とかいろんなことぶつぶつ言われて先に痺れを切らしたのはもちろん私のほう。もちろん立ち寄ったのは帰り道にあるコンビニ。
「はい。スイートバレンタイン〜」
「えっと、名前さん?」
「快斗、好きでしょ?」
「……いや、まあ好きだけど」
「それにそれもちゃんとしたチョコレートじゃない?チョコレートアイス」
そこで買ったのは快斗の好物であるチョコレートアイスクリーム。
雪がちらちら舞うほど寒いなかで、それを今すぐ食べろというのかと言い出す快斗。
もちろん私の同意件。私がこんな寒い日に外でアイスを食べろと言われたら同じ反応をする。絶対に。文句を言いながら、それでも快斗は美味しそうに食べてくれる。ちょっとした悪戯心だけど、そういう優しいところも好きなところ。
「う〜さむっ」
「はい。」
「ん?お!あったけ〜!」
「ホットチョコだって。バレンタインデーだからって限定で売ってたよ」
「……っはあ〜生き返る〜」
「はい。お粗末様でした」
「……なあ、名前」
「ひっ…!なに快斗!冷たい!」
「仕返し?」
アイスを食べていたからか、寒いなかを歩いているからか冷えている快斗の手が私の右手をぎゅっと握る。
今二人で歩く私たちは恋人に見られてるのだろうか。恋人たちのように繋がれた手は、優しい温かさをくれる。
「ありがとな名前」
「お礼言われるようなことしてないのに…」
「名前から貰うってことが重要なの!」
「……え、」
ほんのりと頬を染めた快斗と視線が合わさって二人で気まづく反対の方に視線をそらす。
「……ねえ快斗、」
心の準備はまだ出来ないけど、後でケーキを持っていこう。そう誓いながらまだ繋がってるそれに力を込めた。