こころ
気付いた時にはもう当たりは暗くなり初めて、空には綺麗な月が出始めていて思わず肩を落とす。
「今から買いにいってもお店閉まっちゃうよ…」
忙しいとはいえ誕生日を忘れるなんて。
誕生日プレゼントも、ケーキも、ご馳走だってなにも用意してない。もちろんその相手である私のパートナーの美風藍は後者の方は喜ぶどころか電力消費するだけとか言ってきそうだけど、やっぱりちゃんと形から入りたい!って思ってたのにその当日にこうも簡単に忘れてるなんて…
「……そもそも藍ちゃん帰ってきてるかな」
仕事もそのままに広い寮の廊下を歩く。藍ちゃん自体、人気アイドル。まだ家に帰ってきてない場合ももちろんあるだろうし…帰ってきてなかったら合鍵使って上がってようかな…藍ちゃんの家、機材も揃ってるから作曲もしやすいし。
□
「……あれ、」
「30分オーバー。#name#にしては早いほうか」
「藍ちゃん?もしかして待っててくれたの?」
「………」
合鍵を使って中にはいると家主である藍ちゃんが出迎えてくれた。
「藍ちゃんもしかして何か作ってたの?」
「#name#の最近のスケジュールは把握していたから今日のことも忘れる事も予想はできていたから」
「面目ありません……。私、なにも用意してなくて…」
「不思議なんだ…。」
「ん?」
「君が忘れることは予想通りのことだから分かりきっていたこと。それに誕生日だからって祝う理由だってよくわからない。だけど待っている間、なぜかここが苦しくかった。」
胸の辺りを抑える藍ちゃんはとても不思議そうにそう歯切れも悪く告げる。
「藍ちゃん。」
そんな藍ちゃんの手を両手で握りしめてアイスブルーの瞳と目を合わせる。私の精一杯の想いを込めるように。
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、ありがとう」