春の訪れ



すーすーと規制正しい寝息が聞こえる部屋にそ〜っと入る。

今日は真緒には珍しいユニット活動も生徒会関係のこともない完全オフの日。そんな日の彼にしてはだいぶお寝坊な時間帯に私は彼の家に訪れ、彼の母親に促されて意図も簡単に彼の部屋に入ることに成功。

もちろん約束なんてしてない。完全に私の自己満足。

ベッドの側によってそっと覗きみると、少しつり目がちな瞳は閉じられ、口元は微かに空いていて私が部屋に入ったこと等気付いてる様子もなく気持ち良さそうに眠っている。


本当ならこのまま寝かしていてあげたいけど、私はいつもここら辺で魔がさして彼を起こしてしまう。


なぜって、それは。


カーテンの隙間から盛れる光によって彼の赤い髪がきらきらと輝いてして、健やかな寝顔に思わず触れたいと思うのを止められないからだ。

とまあ、ここまででわかるように私はこの行為の常習犯でもあるわけで。




「……ん、ふぁわあ…#name#?」



さすがに頭を撫でられると違和感を感じるようで、いつも彼はここで目を覚ましてしまう。


そんな彼は寝起きのこともあっていつもはピンで上にあげている前髪も下がったままだ。


真緒は普段あげた前髪をピンでとめてる。それは先端恐怖症だったからだけど、最近は下ろしても大丈夫なくらいに薄らいでいるらしい。

けど、彼はスイッチ代わりだとかでいって今でもそれを変えることはない。

だから、その髪型を見れる貴重な時間がいつもここだけだというわけで。


前髪を下ろしてる時の真緒は大人っぽく見えて、いつもとはまた違った一面を見ることができるから私はたまにこうして通っている。


もちろんその事は本人には言ってない。真緒には漫画の返却や借りにきた的な事を言っているけれど。


好きなんだからこればかりはやめられない。




「おはよう真緒」

「おはよう。というかなんで#name#が俺の部屋に…。いま何時だ?」

「9時すぎだね。この前借りた漫画返しにきたら寝てるんだもん。」

「お前昨日そんなこと言ってなかっただろ」




呆れた様子で目を伏せる真緒。
このやりとりも毎度のことのようにやってる。


高校が分かれて会う回数がぐんと減った分、夜に電話がかかってくることが多くなったからなんだけど。
平凡な学校で特にこれといった部活にも入ってない私なんかよりも、アイドル育成学校で生徒会やバスケ部にも所属してる真緒は比べ物にならないくらい忙しい。

私的には嬉しかったけど、一度掛かってきた電話の向こうの彼の声と噛み殺したあくびを悟って「電話だって無理しなくていい」とは言ったんだけど、彼は最低でも1週間に一度は必ず電話をくれる。
だから私の着信履歴は彼の名前が一杯。


メッセージのほうも全然急いでない漫画の話だったりもしてるのだけど…。


メッセージのやり取りと、直接声を聞けるやり取りはやっぱり心に与える影響はだいぶ違うみたい。


ほんと、自分が大切にされてるのがすごくわかる。


思い出すと口元が緩みそうになるってぐっと堪えようと唇に力をこめた。そんな変な顔を見られなくなくて踵を返し閉められたカーテンをあけた。




「……あ」



外では鋭さを増した風がびゅーびゅーと音をたてて、きぎを揺らしてる。
そんな中、淡く色づいて見える芽にぽんと浮かんだ思考にそんな声を洩らす。



「どうした?」

「う〜ん…。ちょっと面倒なこと思い付いちゃった、かな?」

「なんだよ、面倒なことって。また俺を巻き込むなよ」

「んー。巻き込むかも。というより真緒がいないと意味ないし」

「意味ない?」

「えっとねー……」



きょとんと目を丸くする真緒が持っているピンを抜き取ってそれをいつもしてるように差してあげながら説明すると不思議そうにしながらも「いいぜ」と笑って了承してくれる。

だって、一度はしてみたかったんだ。
女の子なら一度は夢見る憧れ。



“制服お花見デートしませんか“



どうせなら皆も呼んで大勢で。

場所は学校の校庭になっちゃうから真緒には面倒をかけちゃうけど、お花見は大勢でならもっと楽しい。



でもー、

その日はちょっとだけ待ち合わせよりも早くに出掛けよう。


その間だけは二人っきりの時間を。





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