頬に当たるひやりとした硬い感触と背中にかかる圧迫感。これはまさか俗に言う金縛りかと思い興奮を抑えつつゆっくりと目を開くと、視界にはザキくんの顔面がありましたとさ。人生って結局こんなもんだよね。こうなるまでの記憶が一切無いのでここが何処なのかすら分からないけど、分かるのは多分私が今寝てるのは床で、上に原くんが乗ってるということだ。そして次に自分がやるべき事を考える。数秒考えた後いい機会なので原くんの目を見てやろうと思い立った。さっそく潰されていない方の手で原くんの前髪に手をかけた瞬間、私よりも一回り太い手がそれを阻止した。

「原くん狸寝入り?いい度胸してんね」
「なまえチャンこそいい度胸してんねー、この腕折っていい?」
「ヒエ〜ッ。とりあえずどいて」
「はいよ」

背中にかかっていた圧が一瞬にして無くなり、原くんの顔(というか前髪)で埋め尽くされていた視界もクリアになった。ぐるりと当たりを見回してみると、私が寝ていたのは体育館だったということに気付く。おかしな点は山ほどあるけど、とりあえずその中でも特に気になることをいくつか言ってみよう。
まず一つ目。この体育館は、普段私たちが使用している霧崎第一高校の体育館ではない、全く知らない場所だということ。
二つ目。なんか知らない面子が揃いも揃ってぶっ倒れてること。
そんで最後。通常体育館には無数の窓ガラスが設置されているものだけど、この体育館には窓がひとつもない。つまり外の様子が全くわからない状況にあるということ。
以上が直感的に気になったことでした。かといってそれは何故なのか〜とか考えるのは面倒なので、思考はここで放棄する。そこまで考えたところで、大きな欠伸を噛み締めながら伸びをしていた原くんは近くで寝ていたザキくんを叩き起し始めた。

「ザキ起きなよー、起きないと花宮が激おこだよ」
「殺される!!!!」
「花宮くんに洗練されたザキくんおはよ」
「なんか言ったか」
「おおっと〜〜〜〜〜花宮くんいたのね」

背後から頭を鷲掴みにされ頭部がギリギリと締め付けられる。これ禿げちゃうな〜16歳にして禿げちゃうな〜と抑揚のない声でストップをかけると、舌を打ちながら手が離れた。渋々かよ。
振り向くと不機嫌そうに個性的な眉を潜めた花宮くんが居た。知ってたけど。どうやら起きたのは私たちが最初ではなかったらしい。

「ちなみに花宮くんここがどこか知ってる?」
「知るわけねえだろ」
「うわ〜〜〜じゃあこの場では全員対等な立場ってことじゃん。おい花宮くん飴買ってきて」
「お前今対等な立場っつったよな?」
「...はじめましてみょうじ先輩」
「ワ〜ビビった〜〜誰?」

花宮くんとぽつぽつ会話を交わしていると、いつの間にか花宮くんの隣に立っていた赤髪男子に声をかけられた。多分彼の反応的に最初から居たんだろうけど、私の視野は狭い。ごめん。ところで誰だろう。

「洛山高校バスケ部の主将をしています、赤司征十郎です」
「後輩ってことは1年?1年で主将か〜〜洛山バスケ部常識を覆すね、初めて聞いたけど」
「コイツが極端に周りに興味が無いだけだから気にすんな」
「..分かりました」
「花宮くん絶対私のこと貶したよねウッザ」
「あ?」

こうしたやり取りをしている内に、続々と寝ていた人達が起き上がり始めた。最初見た時に思ってたけど男子率高いな。ひと呼吸おいて赤司クンがここに集められた人間の共通点がなにか分かりますか?と質問してきた。正直全くわからないので適当に全員初対面と答えれば、分かりやすく溜息を疲れる。側で聞いていた花宮くんでさえも頭を抑えていた。

「まず状況の説明をしますね。僕達は今、端的に言うと体育館に閉じ込められている状態です。出口のドアは鍵がかかっていて出られませんでした。そしてここにいる人間は全員バスケ部、またはマネージャーです。霧崎第一もレギュラーは全員いますよね」
「いるいる〜。じゃまずはその鍵探さなきゃじゃん、体育館で花宮くんたちと餓死なんて嫌すぎる」
「そっくりそのまま返す」
「とにかくここにいる人たち全員に状況を把握してもらう必要があります。一旦集まりませんか?」
「良いよ〜〜〜私は」

ちらりと周りを盗み見る。バスケ部、ということはウチと試合をしたことがある高校もあるかもしれない。試合したことがなくても、霧崎の評判は皆耳にしているだろう。時々向けられる刺さるような視線に特になにか感じる訳もなく、私は古橋くんと瀬戸くんを起こすため歩き出した。