君が嫌いな孤独に似ている
花は手折らず愛でるもの


向かいに住む幼馴染は、まるで絵に書いたよう人だ。顔立ちは悪くない。むしろ、ぱっちり二重に長い睫毛。鼻筋も通っており、わたしよりも肌が白い。今は日焼けをしているのか少し黒くなっているが。身長も男子の平均をだいぶ前から超えており、十人に八人ぐらいは二度見するレベルの顔立ちだと思う。眉目秀麗。品行方正。幼馴染のための四字熟語だと感心した記憶はまだ新しい。

そんな幼馴染とは高校まで同じ。最寄りの駅から二十分も電車に揺られていれば着く、遠くも近くもない距離の高校へ進学した。わたしは学力的にここが限界であり、そこそこ制服もブレザーでスカートの襞も多く可愛い。セーラー服も捨てがたかったが、そこは仕方ない。いずれ着てみたいと中学の旧友と約束をした。

幼馴染は公立の中でも偏差値上位にいる高校に進学だと訊いていたのだが、入学式の新入生代表の言葉を読むのに選ばれていた時に初めて知った。わたしの母親も幼馴染の母親も顔を毎日合わしていたのに、なぜ、教えてくれなかったのだろう。周りの喧騒に飲み込まれていくほどの声量で名前を呼んでも、幼馴染は一度もわたしを見つけてはくれなかった。

「ーーご、ごめんくださーい……嗣?  入るよ、入るからね!」

高校一年生の六月。初夏が訪れ、梅雨入りしたばかりの土曜日の朝。約二年振りに幼馴染の家に足を踏み入れた。

預かった鍵を使い、意を決して中に入る。わたしの家と正反対の間取りだからか、小さい頃は戸惑ってしまった。

廊下を進み、リビングに繋がる扉を開ければ、洗濯物が途中まで畳まれているが、テレビはつけっぱなしで冷蔵庫が少し開いていた。ピーッという控えめな音が聴こえ、慌てて閉めに行く。幼馴染はきちっとした性格故、こういったこと滅多にない。おそらく、母親の方だろう。玄関横の鉢植えの下に鍵を隠したり、古紙に出す雑誌の間にへそくりを隠したり、諸々と茶目っ気溢れているからか、幼馴染は自然と歳相応よりもだいぶ大人びてしまった。それが良いと思春期を迎える頃には学年で一番の人気者だったが。

「……自分の部屋にいるのかな」

リビングを後にし、玄関を開けて右側にある階段を上る。二つある扉の内、一つが幼馴染の部屋だ。なぜか、足音を立てずに階段を上ってしまったが、震える声で呼びかける。三度ほど呼んだが、耳を澄ましても幼馴染からの応答は聴こえない。ここまでくると、不思議というか、不安が過る。ドアノブに手をかけた。

「嗣? 開けるよ……あき、つぐ?」

瞬間的に目をつむってしまったらしい。目を開くと、そこには誰もいなかった。おかしいなと首を傾げれば、「おい」「ひっ」真横から声が聴こえた。

「……つ、嗣」
「お前、なにしてんの。人の部屋で」

そこには、わたしより頭二つ分ぐらいあるのではと思うほど見上げれば、幼馴染の佐原明嗣が立っていた。

「なにしてんのかって訊いてんの」

威圧的な声。頭上から降ってくる言葉に思わず目を伏せる。明嗣の声に怯えるようになったのはいつからだろう。肩が跳ね上がり、視線が泳ぐ。そんなわたしに苛立ちを表す明嗣に、またビクついてしまう。

「あ、えっと……嗣の母親にばったり会っちゃって」
「会っちゃって? それから、なに」
「あ、うん、その……ちょっと出なきゃならなくなったとかで、嗣に伝えてって、言われ、て……」
「俺も出かけてたから連絡すれば済むことだよね」

「そう、です、ね」それはわたしが悪いのだろうか。とは、言えるはずもなく。冷や汗がだらだらと垂れてくるのを感じながら、足早に明嗣の部屋を後にしようとしたところで、思い出す。

「ご、ごめんなさい。もう、帰るから……あっ、鍵! 鍵、返しとくね」

扉に片腕をぶつけつつも、急いで明嗣に鍵を渡す。「や、やっぱり、鉢植えの下に隠すのはやめた方がいいと、思う、よ」と言いながら廊下へと出る。冷や汗が頬を伝っていた。

「じゃ、じゃあ……」

吃りつつ、明嗣に手を振る。さっさと退散しよう、視線や言葉が胸に突き刺さる前に。そう思い、踵を返す。

「ーー花穂」

「えっ」自分でも馬鹿っぽい声が出たと思った。それよりも、驚いたという表現が正しいだろうか。何年かぶりに名前を呼ばれ、なにを言われるのかまったく想像がつかないまま、とりあえず、返事をする。

「な、なに……?」

もともと色素の薄い栗色の髪の毛に、両耳に空いた二つのピアスの穴。どこを見ればいいのかわからなかったから、とにかく床を見続けていれば、明嗣




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