忘却の姫子
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青の剣士 
 ミルフィはプンプン怒りながら自室に戻った。

(信じられないったら)

 寝間着から普段着に着替えながら、夢遊病の気でもあるのかと本気で首を捻る。ユージンの寝室に寝惚けて潜り込んだのはミルフィなのだからユージンとしては怒られる筋合いはないのだが「お前と久しぶりに寝れて俺は嬉しかったのだがな。口をあけて涎をたらしながら眠るお前は可愛い」と来た。
 ユージンのからかい混じりの言葉に怒るなという方が無理だろう。

(ユージンの馬鹿。エッチ)

 昔は一緒に寝たりもしていたが、それは幼い頃の話だ。怖い夢を見たりした夜は、泣きながらユージンのベッドに潜り込んだ。だがそれも十歳までの話である。

(どうしてユージンのベッドに潜り込んだりなんかしたのかしら、私ったら。もう小さな子供じゃないのに)

 そう思いながらも、心の底では理由を理解している部分もあった。自分の不甲斐なさにも呆れて膨れる。
 きっと、セレスティアの話を聞いたからだわ、と口の中でつぶやく。戦争の話は本当に痛ましくて恐ろしい。
 昨日だ。オスガから話を聞いて、ハウエルと別れて家に帰宅しても、ミルフィはずっと気持ちが沈んでいた。大好きなレゼナ花に纏わる悲しい真実は少なくともミルフィの心に小さな影を落とした。
 ユージンには話さなかった。要らない心配はかけたくなかったからだ。それがまさか、ユージンのベッドに潜り込むことになろうとは思わなかった。

忘却の姫子