身体が重い、体調が優れない時によく使う表現だけど、私は今、本当に身体が重い。というよりは、身体に重さがのしかかっていると言った方が良いのかもしれない。



「、、ねえ、頼むから重力操作解いてよ」


辛うじて頭だけは動くので、私の身体をベッドに張り付けている張本人に目をやる。そいつは、医務室の椅子に腰掛けこちらを睨んでいた。


「解いたらどうせお前、起きて仕事する気だろ」


「しないしない、神様に誓ってしない」


「手前の言葉は太宰の木偶の次に信用ならねえ」


元相棒の太宰の名を口にし忌々しげにそう言った中也は椅子から立ち上がるとベッドの傍らにやってき、手袋を外し私の額に手を当てる。身長はさして私と大差ない癖に、その掌は大きく感じた。



「中也の手、あったかいね。子供体温ってやつ?」



「病人だからって容赦しねえぞ俺は」



「アハハ、冗談だってば」



「、、、熱、下がってねえな」



険しい表情の中也はそう言うと、冷蔵庫から水枕を出してきて、私が今使っている枕と取り替えてくれた。ああ、冷んやりして気持ち良い。
今朝起きた時、身体が妙に怠くて頭痛がしたけど、仕事に支障はないだろうと判断した私は普段通りパソコンと向かい合っていた。
仕上がった報告書をボスの元へ持って行こうと、椅子から立ち上がったその時、私の身体は重力に逆らうことなく床に倒れていった、らしい。情けない話だが、記憶にないのだ。気づいたときには、医務室のベッドに横たわっていた。そして、起き上がり仕事に戻ろうとしたところをこの男、中原中也に見つかり現在に至る。



「大体なあ、体調悪いんなら休めよな。紅葉姐さん達も心配してたぞ」



「動けないほど悪かったわけじゃないし、、ていうかもう大丈夫だよ」



「駄目だ。家に帰してもお前のことだからジッとしてねえだろうし、熱が下がるまで俺が此処で監視する」



「それじゃあ中也も仕事出来ないじゃん」



「今日一日サボったくらい、何の痛手にもならねえよ。だから、気にせず寝ろ」



ガシガシと頭を乱暴に撫でられたせいで、髪の毛はボサボサだ。直そうにも手は中也に重力操作されているため上がらない。もっと丁寧に扱ってほしい。






「ねえ中也、桃が食べたい」



「ハア?桃?」


「うん。桃。私、多分桃食べたらすぐに元気になれる気がする」



「、、ほんっと図々しい女だよな。いいか、俺が戻ってくるまで絶対そこから動くなよ動いてたら前歯へし折るからな{emj_ip_0792}」


ビシッと私を指差し、そう捲し立てて中也は医務室を出て行った。ああ言ってたけど絶対前歯を折ったりなんかしない。でも怒るのは目に見えてるから私は大人しく目を瞑り、文句を垂れながら桃を買ってくる彼の帰りを待つことにした。中也がいないと静かでいいけど凄く退屈だから、早く帰ってくるといいな。




摂氏38度に浮かされる



多分誰がそんなに食べるんだよってくらい桃を買ってきそうな男中原中也が尊い。
拍手ありがとうございました。







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