私は本来ならここでいう3年生なのだけれど、注目される必要はないし、どうせなら英語も勉強しようということになって、1年生と同じように入学という形でホグワーツに通うことになった。
入学式までは、ミネルバの家で過ごした。旦那さんがいたのだけれど、旦那さんは昔に亡くなっていて、今は一人で過ごしていると家で。一緒にご飯を作ったり、簡単な家事魔法を教えてもらった。私は魔法が苦手だから。
苗字は、桜田のままだ。本当はマクゴナガルと名乗って欲しかったそうなんだけど、そもそも論イギリス人と日本人だから手続きなどが間に合わなくて、未だに養子縁組をしたわけではなかった。まぁいつかは彼女の養子になるのだけれど、それでももう私たちは親子だった。
「では、またホグワーツで、リン」
「うん、ありがとうミネルバ」
ホグワーツ特急のホームにはまだ人っ子一人いなかった。ミネルバをぎゅっと抱き締める。ホグワーツでは先生というように気をつけないと。そしてできれば、ミネルバの寮がいいなと思いながら、私は彼女からそっと離れる。
にこりと笑みを浮かべたミネルバはバシっと音を鳴らすと、私の前から消えた。私はトランクを握りしめながら、周りを見る。きっとここから、私の新しい生活が始まるんだ。
やってきたホグワーツ特急に乗って、トランクを棚の上に置く。誰もこないうちに、コンパートメントの窓際を確保した。ゆっくり動き出す風景に視線を移す。
目を瞑った。追い出された故郷にいるお姉ちゃんと、孤児院の皆を思い出す。元気にしているだろうか。手紙を出すことも許されない身で、何を思っても仕方のないことだけれど。
「あの...」
コンパートメントの扉がノックされて、ゆっくりと開かれる、目を開けてそっちを見れば、私と同じ黒い髪を持った男の子がこっちを見ていた。
「ここ、座っても大丈夫ですか?」
ここのコンパートメントは私だけだ。彼の言葉にコクリと首を縦に振って、中に入れる。ありがとうございますとお礼を言って、私の向かいの席に座った彼のネクタイは、私と同じ黒色で。彼も新入生なのだろうと思った。
「新入生ですか?」
「うん。君も?」
「はい」
彼はそう言うと、口を閉じて、窓の向こうを見る、私も彼と同じように窓を見る。なんとなく、静かなこの場が居心地が良かった。
「...名前は?」
新入生なら私より2つ下だ。いくらか背の低い彼をちらりと見ると、彼はこっちを向かずに、小さい声で「レギュラス・ブラック」と一言言った。もう一度視線を窓に移し、今度は私が名乗る。
「リン・桜田」
「...何も思わないんですか?」
「え?」
彼、レギュラスくんは目を見開いて、私を見た。私も窓から視線を離して、前に座る彼の顔を見るに。何だろう、何を思わないといけないのだろうか。彼は有名人だったりした?
「...ごめんなさい、私日本から来たからあまりわからない...親も魔法族ではなかったし...」
そういえば、レギュラスくんは目をパチパチと2回、ゆっくり瞬いてそして小さく笑みを浮かべた。
「そうでしたか...リンは、どうしてイギリスに?」
レギュラスくんは、私の目を見ながら言う。まだ11歳やそこら辺なのに、随分としっかりした子だ。日本ならまだ小学生の年齢だ。私がこのぐらいの時、こんなにも落ち着きがあっただろうか。
「...里親が、イギリスで働いてるから、ついてきたの」
「それは...」
日本で言ってる嘘の設定と、違いがあってはならない。イギリスは純血の人間が幅を利かせていると、ダンブルドア先生に教えてもらった。少しでも、禁じられた呪文を使い日本を追い出された魔女を悟られてはいけないから。
「気にしないで。英語もまだ勉強中なの。変?」
少しバツの悪そうな顔をしたレギュラスくんにそう聞けば、彼は一瞬首をかしげてそしてゆるゆると首を横に振った。
「綺麗な発音だと思います」
そう、言ってくれたレギュラスくんは、丁寧な言葉遣いとは裏腹に、とても年相応な可愛らしい笑顔を浮かべていた。