初めての友達ができた。

ホグワーツ特急で出会ったリン・桜田という日本人は、不思議な少女だった。僕の名前を言っても我関せずという感じで。なんでだろうと思えば、彼女はマグル出身で、さらにイギリスの魔法界に疎い子だった。


スリザリンに入るだろうと言って前に歩いて行ったリンは、ハッフルパフに入った。儚げで、列車の中でもどこかを寂しそうに見つめていた彼女に、なんとなくハッフルパフは似合わない気がした。

だけど、堅物で高飛車なレイブンクローに、派手で騒がしいグリフィンドール、そして狡猾で冷酷なスリザリンなんかよりも、きっと彼女は黄色い暖かなあの寮の方が合っているのかもしれなかった。

「おはよう、レギュ」

僕とリンはよく会うようになった。
スリザリンとハッフルパフという奇妙なコンビではあったけれど、僕をブラック家と見ないリンを疎む理由はどこにもなかった。

「おはよう、リン」

大広間から出れば教科書を抱えたリンがいた。僕も彼女の隣に立ち、同じように歩き出す。いくらか彼女より背の低い僕は、リンを見上げる形で挨拶を返す。

「最初の授業は何?私は薬草学だよ」
「僕は魔法薬学だ」
「グリフィンドールと合同の?」
「そう。ハッフルパフと合同が良かった」
「地味だから?」
「リン...」

一番地味なハッフルパフ。スリザリンの人間は、スリザリンが1番だと思っている節があって、グリフィンドールは言わずもがな、ハッフルパフのことをよくそう揶揄している。

ニヤリと笑いながら僕をちらりと見て先を歩くリンを追いかける。リンは意外に、とても明るい子だった。あの時は緊張でもしていたのだろうか、と言うほどに、彼女はよく話す子だった。

「明日、同室の子とお菓子パーティーするんだ」
「へぇ...楽しそうだ」
「うん。今度レギュともしようね」
「僕と?」
「だってレギュの家ってお金持ちなんでしょ?ブラック家は有名だって教えてもらった」

リンの言葉に耳を傾ける。ニコニコと笑いながら話す彼女の言葉の最後には音符マークがつきそうだ。

「お金持ちの人のお菓子食べてみたい」

彼女は孤児院出身だ。せっかく里親が見つかっても、すぐにイギリスに来て、そのままホグワーツに入学。里親ともそんなにつながりを育まないまま、入学したのだろう。
同情をするわけではないけれど、少し不憫な人生を送ってもいる彼女の小さな願いだ。僕はリンの顔を見上げて、小さく笑みを浮かべる。

「もちろん」

ブラック家を高貴な家ではなく、ただのお金持ちの家としてみてくるリンが、内心嬉しかったんだ。僕を、レギュラスとしてみてくれる彼女が。

リンは僕をちらりと見て笑顔をこぼすと、それじゃあと手を振って教室に入っていく。友達の元へと小さく走り寄っていく彼女の背中を見つめて、僕も、自分の授業のある教室へ足を向けた。



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