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次の日、朝教室に向かえば莉桜、愛美、原ちゃんの三人に捕まって、昨日はごめんと謝られた。それに対して私は笑いながら、気にしないでと一言言う。それでも頑なに謝り続ける三人に、本当に気にしなくて大丈夫だからと肩を叩けば、しぶしぶといった感じで、引き下がってくれた。

こんなに心配してくれているだけでも、十分にありがたいんだ。

私はカバンを机の横にかけて、朝のSHRが始まるのを待った。隣の席のカルマくんになんだか意味深な目を向けられたけれど、とりあえず今は無視だ。



「必要なのはお得感です」


学祭が始まるわけだけど。今日のSHRではその学祭での出し物の話し合いとなった。A組はスポンサー契約を結んでまで私たちE組を蹴散らそうとしているらしくて。思わず苦笑を漏らした。


「安い予算でそれ以上の価値を生み出せれば客は来ます。E組におけるその価値とは...例えばこれ」


そう言って殺せんせーが取り出したのはどんぐり。先生はどんぐりをジャグリングのように頭の上で回しながら話を続ける。


「いろいろ種類はありますが...実が大きくアクの少ないこのマテバシイが最適です。皆で拾ってきてください。君たちの機動力なら一時間あれば山中から集めれこれるはずです。水につけて浮いたものは捨てて、殻を割って渋皮を除き、中身を荒めに砕いたら布袋に入れて川の水にさらして1週間ほどアクを抜きます。そのあと天日干ししてさらに細かくひいてどんぐり粉を作りましょう。それを小麦粉の代わりにしてラーメンを作りませんか?」


殺せんせーの言葉にいち早く感づいたのは村松くん。あらかじめ作っておいたのだろうどんぐり粉を殺せんせーが取り出し、その粉に指をつけて味を確認する村松くん。さすがラーメン屋さんの息子なだけあって、的確な指摘をした。予想通りの指摘だったのだろう、粉のつなぎに必要なものとして自然薯、いわゆるとろろ芋を先生が掘り出して見せた。

この山、すごくないか?

私が内心驚きながらその光景を見ていれば、クラスの皆は自然薯掘りやどんぐりを探すために散った。私は慌てて、散っていく皆の背中に声をかける。


「探したらどこに何があったのか教えて!!それぞれ解析して、散布図として地図更新しておくから!!」


アプリを開いた画面を見せながらそういえば、全員「おう!!」と言ってもう一度散っていく。さて、私たちはどうしようかとキョロキョロしていれば。ラーメン1種じゃ足りないんじゃないか、具はどうするのかという声に殺せんせーがヌルフフとニヤニヤ笑う。


「この山には、食の恵みがたくさんあります」


その言葉に、余った人たちで山を歩く。使えそうなものはとりあえず手当たり次第採っていこうと。私は寺坂くん、ひなの、竹林くんと共にプールの場所に向かって魚釣りをした。


「こんなに魚いるところに夏泳いでたんだと思うとなんかぎょっとする」
「魚だけに?」
「やめて、ひなの...」


ニヤニヤと笑いながらそう聞いてくるひなのに少し顔を赤くして顔を背ける。ダジャレを言おうと思ったわけじゃないのに。そんな私たちを呆れたように見ていた寺坂くんと目があって、昨日の今日なだけに少し気まずくて目を伏せてたら、竹林くんが「お...!?」といった。そっちを見れば、竹林くんの竿が強く引かれていて、これは大漁の予感...!!と私たちは自分の竿を放り出して彼の腰を支えて「せーの!!」と言って引っ張った。







「プールにわんさか住み着いてたわ」
「ヤマメ、イワナ、オイカワ、テナガエビも美味しいんだ〜」


きゃっきゃっとしながら魚を指差して笑うひなのに苦笑しながら、私は釣竿を置く。動物に詳しいひなのがいたおかげか、私たちは何匹もの魚を釣りあげることができた。


「控えめにとってもサイドメニューには十分な量だ」
「激安で出して客寄せに使うてもあると思うよ。例えばイワナの塩焼き50円、とかね」
「安すぎねーか?」
「安すぎるぐらいがちょうどいいんじゃないかな」


竹林くんの後にいった私の言葉に、疑問を呈した寺坂くんに答える。まぁ確かに50円は言いすぎたかもしれないけれど、本当に売りたいものはラーメンなわけだしね。


「そのキノコ鑑定してよ殺せんせー」


渚くんとキノコ採りにいっていたカルマくんが戻ってきた。カゴの中にドサドサと入っているキノコを一つ一つ懇切丁寧に解説する殺せんせー。中にはまさかの松茸もあったようで、なおさらこの山の凄さに私たちは驚嘆した。


「ねえ先生」
「はい、どうしましたか新稲さん?」


キノコに恐る恐る触れながら感嘆のため息をついている皆を一瞥して、私は先生に言葉をかける。


「毒のあるものとないもの分けてくれる?それ写真撮って律と解析して、写真撮るだけで無毒か有毒か分けるツール、作成するから」
「そんなことできんのかよ新稲!!」
「でもそれあったらかなり効率良く探せるよ、新稲ちゃん」


結構小さい声で話していたつもりだけど聞こえていたようだ。私は頬を掻いてちらりと殺せんせーを見上げる。先生はヌルフフフと笑いながら、触手をテキパキと動かして、キノコや木の実たちを分けていった。


「ぜひ、作ってみてください新稲さん。貴方の頭なら、きっとすぐできるでしょう」


そう言われれば、頑張らないわけにもいかない。私はいそいそとそれらをスマホの写真でとっていき、律と話を進めた。




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