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ついに中間テストがやってきた。
昨日あれだけのことを先生は言ったんだ。私はできる限りの自分の力をだそう。
「E組だからってカンニングするんじゃないぞ。俺たち本校舎の教師がしっかり見張ってやるからなー」
露骨に集中力を乱そうと、貧乏ゆすりしたり何度も咳をしたりする大野先生。
なんてあからさまな態度。こんな人間がいるから、こんな学校でも誰も変だと思わないんだ。
あぁ、しまった。集中だ。今は目の前に問題に目を向けないと。
...今までの私とは違うのがわかる。
数学の問題で、解けなかったことは今まで一度もないけれど、それでも違う。
どこを見ればわかるのか、どこを重要視すればいいのか。それが一目で分かるのは初めてだ。
それはみんなもそうだったのだろう。みんなの鉛筆の進むスピードが速い。
この問題ならやれる、そう、思った。
「...先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです。...君たちに顔向けできません」
はっきり言って、あの問題はひどすぎた。中学生に解かせるような問題ではなかっただろう。
私は自分の答案用紙を見つめる。
数学と理科以外はひどい点数だ。社会なんて60点。本当に自分の文系のできなさにほとほと参る。
殺せんせーが私たちに顔を向けずに数分が経った時、私の隣からナイフを投げる人影が。
「いいの〜?顔向けできなかったら俺が殺しにくんのも見えないよ」
カルマくんだった。
カルマくんは、答案用紙を先生の目の前にばらまく。その点数は、驚くほどに良かった。彼が暴行なんてしなかったら、一生E組とは縁のない頭の出来だったのだろう。
「俺、問題変わっても関係ないし」
「ウォ...すげー」
木村くんの感嘆の声がする。
「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。それに、」
そう言って、カルマくんはくるっと後ろを振り向く。
「新稲ちゃんもでしょ?」
「...え?」
いきなり話を振られて困惑した。
あたふたしながら何のこと?と聞けば、カルマくんは、ははっと笑いながらいつの間に持って行ったのか私の答案用紙を二枚持っていた。
「新稲ちゃんなんて、理科も数学も満点だよ。数学なんて非の打ち所のない完璧な回答。ね、新稲ちゃん」
にこっと性格の悪そうな笑みを向けながら聞くカルマくんに、私は少し手をきつく握りしめて、うんと頷く。
そして自分の席から立ち上がり、机に手を置いて先生に向けて声を発した。
「先生が、私のレベルに合わせて高度な問題を教えてくれたからです。今回のテストで、初めて余裕をなくした問題に当たりました。それでも、焦らずに問題を解くことができたのは、先生のおかげです」
数学なら、どんな問題だって解ける自信はある。それでも今回の中間テストで出た問題は、少し頭を捻らせないと解くことのできない問題ばかりで。
そんな問題を、マイナスもつけさせないでカルマくんにまで完璧な回答と言わせしめた回答をかけたのは、他の誰でもない、殺せんせーのおかげだ。
「そういうこと。それでも俺たちはE組を出る気ないよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし」
まず私は数学と理科が満点だっただけで、他の点数はイマイチなんだけど。
「で、どーすんのそっちは?全員50位に入んなかったって言い訳つけて、ここから尻尾巻いて逃げちゃうの?それって結局さぁ殺されんのが怖いだけじゃないの?」
カルマくんのその言葉にピクッとこめかみを動かした殺せんせー。
それに気づいた私たちは、徐々にその挑発に乗り、
「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ」
「それなら正直に言えばよかったのに」
「ねー怖いから逃げたいって」
と、みんなで先生を挑発していく。
「にゅやーーーー!!逃げるわけありません!!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」
そして、いつも通りの先生に戻ったのを見届けて笑う。
私はもし、文系の科目ができて50位以内に入っていたとしても、きっとこのクラスを出ようとは思わないだろう。
殺せんせーと言う、きちんと私を見てくれる人がいるから。
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