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「それにしても、あんた凄いわ...」
「ん?」


放課後。私の答案用紙をじっと眺めながら莉桜が声を発した。


「今まで数学のテストで、余裕をなくしたことないの...?」
「うーん...ないかなー。今まで満点以外とったことないよ」
「は?」


数学で満点以外なんて、とったことない。
そもそも数学で点数なんて気にしたことなんないし。
まぁ文系科目はそんな誇れたものではないけれど。


「サチちゃんは、理科も満点でしたね」
「まぁね〜」


カバンに教科書や筆箱を詰めていく。
前の席である愛美はすでに準備を終わらせて私を待っていた。


「さすがです!!後で、解けなかったところを復習させてください!!」
「もちろん」


愛美のキラキラした笑顔が眩しい。
莉桜もそれを見ながら苦笑いして、手に持っていた数学の答案用紙を私に渡す。


「でもま、英語は私の方が上ね」
「莉桜英語得意だよね〜今度教えてよ」
「数学教えてくれるなら」
「等価交換ね」


顔を見合わせて笑って、愛美と教室をでる。
莉桜にじゃあねと手を振って、もうそろそろ近づいてきている修学旅行について愛美と話しながら坂を下りた。


「修学旅行かー愛美、一緒の班になろうね」
「はい。楽しみですね〜」
「お土産たくさん買わないと」
「八つ橋とか!!」
「いいね〜」


愛美と話すのは本当に楽しい。キラキラとした笑顔でいつも穏やかに話してくれる。わたしはそんな愛美が大好きだ。
近づく岐路が少し残念だけど、また明日、とお互いに手を振って信号を渡る。

家に向かって歩いて行き、いつもの見慣れた玄関の扉の前に立ち中に入れば、またいつものように食卓の上に、『ご飯代』と書かれた封筒が一つ。

その封筒を、ため息をつきながら掴む。

お父さんが、お父さんじゃなくなってから早一年。
お母さんが死んでから、早一年。

この家での私の家族との時間は、去年からずっと、止まったままだ。



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