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昼休みがあけ、国語の時間になった。
「お題に沿って短歌を作ってみましょう。ラスト7文字を触手なりけりで締めてください」
まず触手は季語なのか?それを前の愛美に聞いてみると、そうなのでしょうか?と答えが返ってきた。
愛美がわからないなら私もわからない。
もともと国語は苦手なもので。お腹いっぱいのふわふわした状態の中伝えられたのは、これを書き終わらないと帰れない。だ、そうだ。
あーどうしよう。国語なんて、評論文とかそういうのが読めればよくね?派の私にとったら何を書けばいいのか分からない。そもそも短歌を作ることに何か意義はあるのか、とさえも思う。
ウンウンと悩んでいると、前でガタリと椅子を動かす音が聞こえた。
渚くんだ。
その手には短歌を書くために配られた紙に隠れて対先生用のナイフが握られていた。
ヤル気なのだろう。全員が彼に注目していた。
渚くんは先生に紙を渡すと見せかけてナイフを振りかざす。けれど、先生はそれを難なくかわして、ニヤニヤしながらもっと工夫を、と言った。
だけど渚くんはそのまま先生に抱きつくと、とてつもない爆発音を鳴らした。
「渚くん...!?」
私は思わず口を押さえながら彼の名前を叫ぶ。隣の方から寺坂くんたち三人が喜びながら前に出た。
100億円は頂いた。そう言っているから、これを考えたのは寺坂くんたちなのだろう。
渚くんは大丈夫だろうか。茅野っちが寺坂くんに怒鳴っているのを聞きながら後ろの席から身を乗り出して確認すると、何か膜のようなものに渚くんは覆われていた。
「実は先生月に一度ほど脱皮をします」
先生の声が天井からする。天井をゆっくりと見上げると、そこにいたのは確かに先生。だけど、今まで見たこともないような真っ赤な顔だった。
先生は怒りを抑えきれないのか、マッハで教室を出てマッハで教室に戻ってきた。その手には表札がたくさん。
私の苗字である新稲の文字の入ったものもあった。
「君たちに危害は加えないが、次また今の方法で暗殺に来たら君たち以外には何をするかわかりませんよ」
そう言って、初めて見た獣のような笑い方は、はっきり言ってとても怖かった。
「何なんだよテメェ!!迷惑なんだよ!!」
寺坂くんの言ってることははっきり言って、ごもっともだと思う。
いきなりやってきたわけのわからないものを殺せと言われて。そりゃ誰だって混乱はする。
けれどこれはあまりにも。
「寺坂くんたちは渚くんを、渚くんは自分を大切にしなかった」
先生の、言う通りだ。
「人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう。君たち全員それができる力を秘めた有能な暗殺者だ。ターゲットである先生からのアドバイスです」
人に誇れる暗殺者ってなんやねん。
私は頭の中でそう呟いて、でも前よりは少し前向きに暗殺という行為に目を向けようと思った。
とりあえず涙を流している寺坂くんは見て見ぬ振りをしよう。
「殺せない先生...あ、名前、殺せんせーは?」
そう言った茅野っちの声に、名前が決まった殺せんせーと私たちの暗殺教室。
明日もまた、始業のベルが鳴り響くのだ。
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