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そんなイライラする日が終わり次の日、愛美と一緒に教室に入ると、その機械はガムテープでぐるぐる巻きにされていた。


「...誰やったの?」


と聞けば、隣の方で寺坂くんがこっちを見て一言。


「お前がどうにかしろって言ったんだろうが」
「え、寺坂くんやっさしー」
「寺坂くんはサチのいうことは聞くよね〜」


席についていた原ちゃんがニヤニヤしながらそういう。
莉桜もニヤニヤして、やっぱり?と聞いてきた。


「莉桜、やっぱりってなに…寺坂くん、ありがとね」
「おう」


ぶっきらぼうにそういう彼だけど、まぁやっぱり根は優しいんだよね。
村松くんと吉田くんに何か言われてるのか少し顔の赤い寺坂くんを見つめてると、私の視線に気づいたのかなにみてんだよと突っかかってきて、それに笑いながら首を横に振る。


「ほら〜なんか仲良いよね〜」


莉桜のわざとらしいニヤニヤ顔を無視して「はいはい」と曖昧に答えて、私もカバンを席に置いて愛美とお話をする。
今週発売の科学の雑誌は読んだか、あの化学式はどんなんだったか、など話をしていると殺せんせーが教室に入ってきた。
そして昨日みたいにまた起動されたその機械さんが、ガムテープで拘束されていることに抗議をするのも予想通り。


「どー考えたって邪魔だろうが。常識ぐらい身につけてから殺しに来いよポンコツ」


と、言葉は悪くてもクラスのことを考えて行動する寺坂くん。それを生暖かい目で見ていれば、あん?と睨んできて。
それを笑いながら黒板に目をやる。あぁ、今日は平和に過ごせそうだな。



「じゃあね殺せんせー」
「あ、新稲さん!!」
「はい?」


授業も終わり、今日も終わりだーと意気揚々と愛美と帰ろうとすれば、殺せんせーに引きとめられた。


「ソフトウェアの作り方についてお伺いしたいのですが」
「はぁ...?」


とりあえず愛美には帰ってもらい、肩にかけていたカバンをもう一度机に置くため再度教室に入り、教卓の前にある誰かの席に座る。


「どんなソフトウェア?」
「演算ソフトです」
「演算?なんで?」
「自律思考固定砲台にアプリケーションとして追加しようかと思いまして」


教卓の前でヌルフフフフと笑いながら立つ殺せんせーに苦笑しながら、カバンの中に入っているソフトウェアを作る専門の本を取り出した。
それにしてもよく私がソフトウェア系に詳しいとわかったなと思っていると、殺せんせーは私の心を読んだのか、スマートフォンで一つのアプリを見せる。


「これ、あなたが作ったものですね?」


コンパスと標高の高さを測定するもの、さらにカメラを向けることで気になる部分の温度がわかるようになるサバイバル向けのアプリだ。
家に帰ってもお父さんはいないし暇だから。ずっと気になっていたアプリを作ろうと思って。できるなら自分たちの暗殺に使えそうなものを、と思って作成したものだ。


「うわ、それどうやって見つけたんですか?ものすごいコアなアプリだから、見つからないと思ったのに」
「なんとなく気になっていましてね〜最近やけに先生に気づく速さが早いと思ったらそういうことだったんですね〜」


サバイバル演習の時、実はこっそりと携帯を忍び込ませて使っていたのだ。バレていたらしい。


「でも悪用してないですよ、携帯」
「えぇ、構いません。暗殺に使えるものならどうぞどうぞ。ただ、これをクラスの皆さんには教えないのですか?」
「うーん...配布したいけど、まだ改良の余地あるし...どうしようかなーって」
「なるほど...では、機動力の比較的高い前原くんや岡野さんたちにサンプルとして渡すのはどうでしょう?」
「まぁそれも考えたんですけど、機動力が高かったら見てる暇ないですよね」
「む、確かにそうですね〜」
「...もうちょっと考えて作ってみますね」
「えぇ、それがいいようです。それにしても、新稲さんは本当に数学や物理の知識がたくさんありますね。先生も驚いていますよ」
「そう言ってくれて嬉しいです」


目を細めて、触手をゆらりと揺らしながら笑う殺せんせー。その笑い方は、生徒を褒めている時に使う表情だ。
少し照れて、そんなことないですけどね、と付け足すと、殺せんせーは私が手渡した本を私の手に渡して、あらかた理解できました、といった。


「先生、アプリケーションを作るのは初めてで少し緊張しています」
「でもこの本を理解できたなら多分大丈夫ですよ」
「あなたにそう言ってもらえるなら嬉しいですね〜」


私がこれを理解するのにかかった時間に比べれば一瞬だ。この先生ならこんなの余裕だろう。私は受け取ったその本を何ページかぱらぱらめくりながら、前に立つ先生に視線を向けた。


「ちなみに、どんな演算ソフトですか?」
「ヌルフフフ...クラスの全員と協力した場合の暗殺成功率を計算させるソフトです」
「ハァ〜...考えることはやっぱり違いますね〜...」
「新稲さんにも、少し手伝って欲しいのです」
「というと?」
「この、計算の仕方です」


そう言って殺せんせーが黒板に書いた計算式を見て、私の心が踊るのがわかった。
こんな計算式、見たこともない。確率というのは沢山の要素があって初めて計算できるものだ。この計算に一体どれだけの要素を込められるのか。そして、どれだけの結果を出せるのか。


「...はい!計算させてください!」
「えぇ」

ヌルフフフと笑っている殺せんせーの隣に立つ為席から立ち上がる。先生と一緒にチョークを持って、私は思考をめぐらした。

そして、20時まで続いた私と先生の演算ソフト作り兼自律思考固定砲台の手入れ兼私への数学の授業は続いた。




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