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「ちょっと、サチ、さっき大丈夫だった?」
「あぁ、うん、カルマくんがひっぱってくれたからね...マジでビビったわ...」


昼休み、原ちゃんと莉桜と愛美の四人でご飯を食べていると、ハッと思い出したかのように莉桜が聞いてきた。
カルマくんのおかげで何も被害は被ってはいないけど、普通に尻餅が痛かった。それをカルマくんに言えば


『え、じゃあそのまま壁に追突したかったの?』


と言われたからそういうことじゃないですとも言えずに、ありがとうととりあえずお礼を言っておいた。



「それはそうと、甘党なところもそっくりなんだねー」


ふと教室の後ろを振り向いていえば、イトナくんは席に座りながらチョコやら何やらを机の上にこんもりと置いて、黙々と食べ続けている。

みんなそれを見て殺せんせーと比較したりしてるからか、そわそわして殺せんせーは次にグラビア雑誌を出した。
生徒がいる前で出すのは如何なものかと思うよ、先生。


すると、やっぱりイトナくんも同じようにグラビア雑誌を出していて。

巨乳好きまで同じとは...!!とみんな思ったことだろう。


「...これは俄然信憑性が増してきたぞ」
「そ、そうかな岡島くん」
「そうさ!!巨乳好きは皆兄弟だ!!」


と、隣でカバンからグラビア雑誌を出す岡島。その雑誌をもろ見てしまった愛美が少し顔を赤くしたため、それに目ざとく気付いた私や原ちゃん、莉桜の三人で岡島...?と名前を呼ぶ。


「いや、ちが、」
「問答無用」
「愛美に変なもの見せないでよね!!」
「これだから男は!!」


莉桜に続いて私、原ちゃんの順で岡島の頭を殴っていく。すると次は不破さんまでも妄想を語り出して。教室は収集のつかない状態になってしまった。






放課後。机をリングにして真ん中に殺せんせーとイトナくんの二人が入る。リングの外に足がついたらその場で死刑というルールのもとで行われるらしい。


「では合図で始めようか...暗殺、開始...!!」


シロが手を振り下ろして暗殺が開始される。その瞬間、私たちの目はある一点に釘付になった。
一瞬で切り落とされた先生の腕ではなく、あるはずのないイトナくんの頭にある触手に。


みんな驚きながらその触手を見つめていると、急に何かの悪寒に襲われた。
感じたことのない殺気だ。少し腕をさすっていると、イトナくんのそばにいる殺せんせーの顔がみるみるうちに真っ赤に染まる。


「どこでそれを手に入れた!!その触手を!!」


今までにない切羽詰まったその声に私はゴクリと唾を飲み込んだ。
すると、シロが何か光るものを出して殺せんせーの体を硬直させた。


「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイタラント挙動を起こし一瞬全身が硬直する。全部知っているんだよ。君の弱点は全部ね」


シロが親指を地面につきたてると同時に、イトナくんの触手が先生に襲いかかった。


殺したように思われたけれど、先生は奥の手である脱皮をしてうまく天井に逃げていた。

それでも、脱皮直後、さらに再生直後によって体のスピードは抑えられてしまい、うまく先生の体が動いていないのがわかる。
しかも先生は焦るのが早いはずだ。触手の扱い方にも少しの影響が及ぼされているんだろう。


「お、おい...これマジでいっちゃうんじゃないの」


本当に、このままでは殺せんせーが殺されてしまう。


...?



いや、殺せんせーは殺さなくてはいけない対象で、死ぬのが一番いい結果なのに。

どうして私は焦っているのだろう。

どうしてこんなに悔しいのだろう。


あんな光線私は知らないし、ダイタラント挙動なんて初めて聞いた言葉だ。
そんな弱点を、どうして私は知らなかったのか。
数学や物理の知識でしかこのクラスでは役に立たないのに、こんな弱点も知らないで。


悔しい...!!


私の知識で、私たちの力で、殺せんせーを殺したかったのに...!!




悔しくて下を向いていると、イトナくんが勢い良く触手を先生に向ける。すごい音を出した後、先生はいつものニヤニヤ顔で平然とそこに立っていてイトナくんの触手はドロドロになっていた。


「おやおや、落し物を踏んづけてしまったようですねぇ」


なんて言いながらハンカチ越しに触るそれは、対先生ナイフ。
それを床に置いたのだろう、だからイトナくんの触手はドロドロなんだ!!

しかもその後、脱ぎ捨てた脱皮をつかんでイトナくんを包んで持ち上げると、先生はそれを勢い良く窓に叩きつけて、外に追い出す。


「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが、君の足はリングの外についている。


先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生をやれませんねぇ」


出た表情は、いつもの生徒をからかう時のシマシマ模様。


先生の、勝ちだ。


「この教室で先生の経験を盗まなければ...君は私に勝てませんよ」


そしていつもの、生徒のお手入れが始まったかのように見えたけれど、イトナくんは急に暴れ出した。
触手が真っ黒で、何度も触手を振り回している。
教室に向かってきたため、私は愛美の手を引っ張って窓から避けると、イトナくんはシロに何かを打たれていきなり電源が切れたとでもいうかのように動かなくなった。


「転校初日でなんですが...しばらく休学させてもらいます」


そう言ってイトナくんを俵担ぎするシロ。
生徒に、まだ15の子供に何を撃ったのか気になるところだったけれど、シロはイトナくんを連れて教室を出て行った。



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