1

体育祭の時期になった。運動の苦手な私にとって本当にクソめんどくさいことこのうえない行事である。
しかもE組はトーナメントとして出るわけでもないし、ただのエキシビジョンとして、女子はバスケ、男子は野球で出ることと決まっている。
ようは見世物なわけだけれど、まぁ約半年間この教室で暗殺なんてものをしていれば、自ずと体力というものは出来上がってくるわけで。


「でも心配しないで、殺せんせー。暗殺で基礎体力ついてるし、いい試合して全校生徒を盛り下げるよ。ねーみんな」


というメグの言葉にみんなで頷く。
まぁ頷いていても、私は体育も苦手だし、応援する側で終わるんだけどさ。


「俺らさらし者とか勘弁だわ、お前らで適当にやっといてくれや」
「寺坂!!...ったく...」


机で頬杖をつきながらみんなの行動を見ていれば、隣で寺坂くんたち三人がそんなことを言いながら席を外したのがわかった。
まだHRやってる最中なのに...それをぼーっと見てれば、元野球部の杉野くんが、善戦じゃなくてできるなら勝ちたい、と自分の思いを語り出す。

それを意識半分にして聞いていれば、みんなのやる気というものがわかってきて、若いっていいねーなんて年寄りくさいことを思ってしまった。

私もまだ中学生なんだけどね。





「てーらさーかくん」
「...あ?お前か...」


HRも無事終わり、愛美とも信号でお別れをした時、公園でぼーっとしている寺坂くんを見つけた。
いつもの二人はいない。一人なのだろうか。


「何やってんの?公園で」
「あぁ...いや、ただ「ブランコとか懐かしいなー」
「人の話を聞けや!!」


寺坂くんが柵に座りながらこっちを見る。
私はキョトンとしながらブランコに座り、真顔のまま向かいにいる寺坂くんの顔を見つめ返した。


「...いや、なんでお前はブランコに座った」
「懐かしいから」
「それは理由か!?」
「うん!!」
「しれっと言うな!!」


肩でゼーハーゼーハー言いながら呼吸を整える寺坂くん。
彼はツッコミ気質のようだ。


「なんで寺坂くんってそんなにクラスに積極的じゃないの?」
「あ?」
「今日だって途中で帰っちゃうし。もっとクラスに馴染めばいいのに」


ブランコに乗って、足を少し揺らしながらそう聞く。ブランコは揺れて動き出した。


「どう考えたっておかしいだろうが。なんでお前も、あいつらも、普通にあのタコと接してんだよ。なんでそんなに普通でいられんだよ」


寺坂くんが眉をひそめながらそう呟く。
私は何度かブランコを往復させた後、空を見ながら口を開いた。


「それってさー...ただの、クラスに馴染めてない言い訳なだけじゃないの?」
「あぁ!?」
「もっと寺坂くんも普通にしてればいいんだよ。難しく考えないでさ。事実を受け入れればいいんだよ。そしたら案外すんなりいくと思うよ?」


勢いよく足を振っていけば、ブランコはほぼ180度の角度で回り出す。
あともう少し頑張れば一周できそうな勢いだ。


「...てめーにはわかんねーだろうよ」
「わかないよ。だって寺坂くん何も言わないもん」


いつも怖そうな顔でいたり、周りを冷めた目で見つめてたり。村松くんと吉田くんは楽しもうとしてるのわかるのに、寺坂くんだけは楽しもうともしない。
せっかくの中学3年という一年間が無駄になっちゃうのに。



「寺坂くんガタイいいし、絶対みんなの役に立つのに。それに優しいしさ!!」


ブランコの勢いが止まらなくなってきた。
久しぶりでどうしたらいいのかわからない。焦りながら、それでもそれを表に出さないように気をつけながら寺坂くんを見れば、彼は苦笑しながらこっちを見るばかり。



「お前それ、どうやって降りるつもりだ?」
「...止まんない...」
「案外お前馬鹿か?」
「助けてー!!!!」


止まらないブランコ。私はぎゃーと叫びながら、足を地面につけたりするけど、なかなかつかなくて焦りが増すばかり。


「いいから落ち着け...!!」


寺坂くんが柵から立ち上がって、腕を伸ばす。
なんとか私の乗ってるブランコの手すりを掴もうとしてくれているのがわかった。
ギリギリ彼の右腕が手すりを掴んで、がくんとなりながらもブランコが止まって行く。


「あーまじで焦った。本当にどうしようと思った」
「お前な...こっちが焦るだろうが!!」


はぁはぁ言いながら、顔を下にして心臓に手をやってそういえば、寺坂くんも冷や汗を流しながらこっちを見下ろしていて。
その顔をチラッと伺う。

ほら、なんだかんだこうやって助けてくれるところ。

不良になりきれてない感じ。

めんどくさげな雰囲気を漏らしながらも気にかける性格。


それら全てを踏まえた上で、あなたは優しい人だと私は思う。



「ほら、寺坂くん。やっぱり優しいじゃん」


ブランコに座りながら、夕日に光る寺坂くんの顔を見つめながら言った言葉は、きちんと寺坂くんに届いただろうか?




prev next


ALICE+