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みんな、動きが軽やかだ。
寺坂くんに手を引かれながら動いている新稲さんの下から上を見上げる。
岡野さんの身軽な動き方に、みんなのバランスの良さ。これもひとえに、烏間先生の訓練の賜物だ。

下からビッチ先生の騒がしい声が聞こえるけど、それもご愛嬌だろう。


「新稲、大丈夫か」
「う、うん、ありがと」


みんな上について、全員が到着するのを待っている。寺坂くんが先に上について、新稲さんの手を引っ張って上に上げている。
その姿を見たカルマくんがニヤニヤ笑いながら寺坂くんの背中に蹴りを入れた。


「この扉の電子ロックは私の命令で開けられます」


いつの間に律の力がここまで広がっていたのだろうか。親子とでも言っていいのか分からないけれど、コンビでもある律と新稲さんの二人は、テキパキと扉や監視カメラのスイッチを切ったりしていく。


「...ですが、ホテルの管理システムは多系統に分かれており、すべての設備を掌握するのは私にも、マスターにも不可能です」
「すみません、今の私の頭じゃこれが限界です」
「いや、新稲さんはよくやってくれている」


烏間先生が新稲さんの目を見ながら、首を横に振り、携帯画面の律に向かって侵入ルートの最終確認をお願いした。

携帯を持っている人全員の画面に示されるのは、侵入経路とともに出された内部のマップ。
はぁはぁと息を整えている新稲さんが、横に立っていた僕にそっとその画面を見せてくれた。


「行くぞ、時間がない。状況に応じて指示を出すから見逃すな」


烏間先生が扉を開けて、中へと入る。
僕たちは先生の指示に従い、足音を出さずに動き出す。壁に沿って中を覗き込むと侵入そうそう最大の難所が立ちふさがった。

警備員がひしめき合っているロビーを通過しないと、僕たちは向こうの非常階段へと行くことができない。
どうする?と全員で考えていると、不意に後ろにいるビッチ先生がワイングラスを片手に普通に通ればいいと言った。


「あんだけの数の警備の中どうやって...!!」


小さい声でビッチ先生に意見を言えば、先生はそれには一切返答をせず、言った通り、堂々と普通にロビーに向かって歩き出した。

向かう先は、ピアノ。

両手を鍵盤に向けて降ろして、艶やかに弾くその姿は、目の奪われる光景で。
月並みな表現だけれど、綺麗だと、そう思った。


20分稼いでくれるというビッチ先生の指示通り、全員非常階段の方へと足を進める。
今ので改めて思い知った、E組のプロの大人たちの威力。
なんて頼もしい人たちなのだろう。





「さて、君らに成るべく普段着のまま来させたのにも理由がある。入り口の厳しいチェックさえ抜けてしまえば、ここからは客の振りができるのだ」


烏間先生が言うには、芸能人や金持ちのボンボンたちが来るところらしく。年代もそんな変わらない。
だから、僕たちも世の中をなめている感じで歩いていけばいい、と。

そう殺せんせーがいうものだから、ニヤリと笑ったり舌を出したりして歩けば、その調子!!と殺せんせーが言う。寺坂くんの歩き方はMVPだなと個人的に思った。

案外楽に歩いていけることに気づいていると、寺坂くんが烏間先生の前を抜いて歩き出した。
それに何かを気づいたのか不破さんがそいつ危ないと叫ぶ。
瞬間、烏間先生が寺坂くんと吉田くん二人の襟をひっつかみ後ろに飛ばす。
寺坂くんのそばを歩いていた客とみられる人間は、ガスのようなものを先生に吹きかけた。


「なぜわかった?さっきを見せずすれ違いざまやる。俺の十八番だったんだがな、オカッパちゃん」


そういった男に、不破さんがさも当たり前のようにおじさんはホテルで最初にサービスドリンク配ってた人でしょと断言した。
さらに推理を続けていく不破さんに、すごいよ!!と驚嘆の意を示せば、不破さんは得意げに笑う。


「毒物使い...ですか。しかも実用性に優れている」


さっきのガスは麻酔ガスだったようで、烏間先生が膝を地面につけて倒れる。
その瞬間、敵が逃げないように武器を持って出口をふさぐみんな。


「敵と遭遇した場合、即座に退路を塞ぎ連絡を絶つ。指示は全て済ませてある。お前は、我々を見た瞬間に攻撃せずに報告に帰るべきだったな」


烏間先生はそこまで言うと、ふらふらな体なはずなのに見事な動きを見せて、敵のおじさんを一発でやっつけた。

けれど、激しく動きすぎたからか、烏間先生が倒れてしまった。


「烏間先生!!」


みんなの悲痛な叫びが響く。

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