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「さぁーさ、皆さん!!二週間後は二学期の中間ですよ!!」
あの体育祭も無事に終わってからというもの、殺せんせーのやる気は溢れきっていて。クラスで何体もの分身を作っては一人一人の目の前に現れていた。それにしても暑ぐるしくて、ここは二酸化炭素が足りなすぎる。
とりあえずは目の前に出された問題を解こうとは思うけれど、私だけではなく落ち着かないのは皆もそうみたいだ。なぜなら、一向に殺せる気配がないまま、勉強している時間だけだ過ぎていたから。
「サチかーえろ」
「んーちょい待ってー」
放課後、突然隣の席のカルマくんに、数学を教えて欲しいと言われた。驚きはしたものの、快く教えてあげていると、気づかないうちにもう下校の時間になっていたようだ。莉桜と愛美と原ちゃんの三人が、仲良くカバンを持って私の目の前に立っていた。
「えーなに、カルマ。サチに数学教えてもらってんの?」
「まぁね。新稲ちゃんの数学は下手に誰かに教えてもらうより一番ためになる」
「殺せんせーの面目丸つぶれじゃない」
「あはは...ちょっとプレッシャーだわそれ」
カルマくんの畏れ多い言葉に苦笑をこぼしていると、莉桜がニヤニヤと笑いながら私とカルマくんの間に入り、小さい声でこう言った。
「寺坂のことも考えなよ?」
「あー、あれ、もう付き合ってんの?」
「何言ってんの!?」
莉桜のその言葉に何を勘違いしたのかカルマくんまで人の悪そうな笑みを浮かべてそう言ってくるもんだから、思わず叫べば、他の人たちにうるせーぞと言われて。
慌ててごめんといえば、寺坂くんが何やってんだお前、と面白そうに話しかけてきた。
「誰のせいだと思ってんの?」
「何で怒ってんだお前」
きょとんとしながらそういう寺坂くん。原ちゃんと愛美は依然として笑っているし、莉桜とカルマくんはニヤニヤ笑って、渚くんと茅野っちは遠くの方で苦笑しながらこっちを見ているし。
私は人知れず小さくため息をついて、寺坂くんに向かってバーカと口パクで言ってやったのだ。
まぁあの後、なぜかはわからないけれどクラスのその場にいた人たちで帰ることになって。
いつもどおり岡島が突拍子もないことを言い出して、その場にいた機動力のある人たちでフリーランニングの応用で建物の屋上を伝って帰ろうと提案したのだ。
もちろん、運動の苦手な私と愛美と原ちゃんの三人は丁重に断りを入れて、残った私たち含め5人で帰りにクレープを買って帰ることにした。
「でさーサチと寺坂くんって結局どうなのー?」
というひなのの言葉に思わず食べていたクレープを吹きかけた。
「何で急にその話?」
「だって気になるんだもん。神崎さんも気になるよね?」
「うん、ちょっとね」
神崎さんは味方だと思っていたのに、と思わず凝視すれば、小さく手で謝られた。
「でもね、サチって結構感情出してると思うの、私は」
「お、E組の母はやはり把握済み...!?」
「ちょっと原ちゃん」
「サチちゃん、というよりも寺坂くんが戸惑っている感じですよね」
「愛美までどうしたの?」
メガネを光らせながら冷静に分析する愛美に神崎さんと二人で苦笑をこぼす。
「どうするの?受験する高校違うよね?」
「まあねー。てかそもそも、今は受験生だし。まだ何も考えてないけどね」
「え、じゃあ高校入ってから?」
「んー...なんでもいいんだけど、寺坂くんがどうしたいのかわからないから今のままって感じかなー」
クレープの生クリームはこんなにも甘いのに。
もぐもぐと口を動かしながらも、私の心はなぜか苦い気持ちを抱いていた。
もうとっくの前から分かっていた。
なんだかんだ、優しい寺坂くんに惹かれていたのは去年からだったし。
なんだかんだ、私に優しく接してくれているのは寺坂くんの方からだったし。
そんな彼に必然と惹かれるのも当然の話で、最近ではクラスの皆の前でもその優しさを見せてくれている。
なのに、彼はただそれを優しさという言葉で片付けようとしているだけに見えるから。
私からは何もできないのだ。
「と、いうか」
「ん?」
クレープを食べきり、皆の分のゴミを受け取って近くにあったゴミ箱に近づこうとした時。ひなのが「んー」と唸りながら、口を開いた。
「サチ、認めたね?」
「え?」
「あ、本当だ」
「本当ですね...」
「サチちゃん、寺坂くんが好きなんだね?」
ゴミ箱のふたがゆらりゆらりと揺れている。
それをボーッと見つめてから、言われた言葉を考えた。
『認めたね』...?
たっぷりと時間をかけて、後ろにいるひなのたちに勢いよく振り向いた。
「...あ」
「ふふ、いいねー恋だね、恋!!」
ひなのが可愛らしい笑みを見せながら私の腕に腕を絡めた。
原ちゃんは優しく、愛美は少し恥ずかしそうにしながら、神崎さんは上品に口元に手を寄せて、笑っていた。
あぁ、私は寺坂くんのことが。
「好き...なんだよね...」
そう口にするだけで、心の奥から暖かい何かが溢れてきて。
思わず、口元がにやけるのが自分でもわかった。
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