1

朝学校に着いたらまず先に、烏間先生とビッチ先生くっつけよう大作戦がなぜか始まっていた。
夏休みでは失敗に終わったから、今度こそ、とひなのを筆頭に男子を巻き込んで女子皆で盛り上げようとしている。

修学旅行の時と同じ班で行動をし、私は皆と買い出しに向かった。大人の女性が喜ぶプレゼントなんて、よくわからない。


「プレゼントなー...」


杉野君が前を歩きながら、クラス全員で集めたカンパの5000円の入った封筒を持ちながら呟く。
そしてくるっと踵を返し、こっちを振り向いたかと思うと、愛美の隣を歩いていた私に目を合わせて、こういった。


「新稲なら例えばなにほしーよ?」
「数学の専門書?」
「お前に聞いた俺がばかだったわ、わりぃ」


と、杉野くんは至極失礼なことをのたまってまた前を向いた。むかっとした私を愛美と神崎さん、茅野っちが苦笑いしながらまぁまぁといった。


「クラスのカンパは総額5000円、この額で烏間先生からビッチ先生へ、大人から大人へふさわしいようなプレゼントは...」


皆で頭を悩ませえ歩いていると、不意に遠くの方から声をかけられた。
お花屋さんの男性だ。私はよくわからないけれど、かつて皆がフリーランニングで帰るといった時に、園長先生とぶつかって大惨事になったのを発見し、救急車を呼んでくれた人のようだ。
その時はお世話になりましたと、とりあえず当事者ではない私たちも頭を下げる。

そのお兄さんは、私たちの話を聞いていたようで、大人にあげるのにふさわしいプレゼントを見せてくれた。


「こんなのどう?」


ウィンクをしながら、カッコよく、神崎さんの前にお花を見せるお兄さん。
なるほど、花束か、と私たちは全員で頷く。


「ものの一週間で枯れるものに数千〜数万円、ブランドもののバッグより実はずっと贅沢なんだ。人の心なんていろいろなのに、プレゼントなんて選び放題の現代なのに、未だに花が第一線で通用するのは何故だと思う?


心じゃないんだ、色や形が香りが、儚さが、人間の本能にピッタリとハマるからさ」


お兄さんの説得力に私たち女子は皆目を輝かせる。


「説得力ありますね」
「名演説だね」
「ね。電卓持ってなきゃだけど」


愛美の言葉に名演説だなと同意すれば、カルマくんもそれに同意する。確かに彼の言う通り、お兄さんの手には電卓があった。


私たちはものの見事に骨抜きされ、5000円で花束を買い、学校に戻ることにした。
成功するかどうかはわからないけれど、たとえ花束じゃなくても、女の子は好きな人からもらったものならなんでも嬉しいだろう。ゴミ以外で。



教室に戻り、烏間先生をなんとか説得させて花束をビッチ先生に渡すように言う。
私たちは全員教室の外に隠れ、窓からそっと二人の行方を見守った。


「あんな花束で成功すんのか?」


ちょうど隣に寺坂くんが来て、小さい声で私の耳元でそう囁いた。
私は寺坂くんの方をチラッと見て、頬をあげる。


「女の子は好きな人からもらえるものならなんでも嬉しいんだよ」
「そーゆーもんか?」
「なんだよ寺坂、リサーチ?」
「あ!?」


カルマくんがニヤニヤしながら寺坂くんの背中をツンツン押す。それに対して小さいながらも声をあげてカルマくんを睨む寺坂くんを見てもう一度笑い、私が窓を見たその時、ビッチ先生ががらっと窓を開けて、冷たい視線で私たちを見下ろした。

そしてその花束を烏間先生に無理やり渡すと、そのまま教室を出て行ってしまったのだ。




結論から言えば、失敗した。


ビッチ先生は次の日から、全く学校に来なくなった。




prev next


ALICE+