小早川隊の実態
「お、雪じゃねーか」
資料を持ってパタパタと白衣を翻して忙しそうに歩いているのはA級の小早川隊に所属している井伊雪さんだった。
井伊さんの姿を見かけるとニヤッと笑いながら話しかけにいく太刀川さんに苦笑しながら、俺もその後ろに着いて行くことにした。
「あぁ、太刀川くんに迅くん、お疲れ」
井伊さんは資料を片手に持ちながら肩まで上げてよっと挨拶をする。
それにお疲れ様ですと頭を少し下げて返事をすれば、太刀川さんがランク戦しようぜと忙しそうな井伊さんのことをガン無視で誘いをかける。
「いやいや、これ見て分かんない?私今忙しそうじゃないかな?」
井伊さんが所属している小早川隊は、全員が技術部門や研究部門の方にも籍を置いているという異色の部隊だ。
井伊さんはおそらくその研究関連の資料を持っているのだろう。呆れながら太刀川さんにそういうと、ペシ、と頭一つ分は上にある太刀川さんの頭を叩いた。
「お前んとこの隊は小難しいんだよ。そうやって研究とかばっかしてるから下位ランクのままなんだろ」
まぁそれは嵐山隊にも言えることで。
むしろ研究をしながらもA級部隊でランクを保っているのはすごいことなのだけれど、狂気的に戦闘が好きなこの人にとったら戦ってくれよという感情なのだろう。
「うわ、そういうこというからあんたは万年留年ギリギリマンなんだよ」
「は!?」
その通りだ。
俺は隣でウンウンと頷いていれば、井伊さんが迅くんもそう思うよね?と俺に話を振った。
「うん、井伊さんの言う通りだと思う」
「お前もそういうのかよ、迅!!」
「てか太刀川さんにはデリカシーがないよ」
「ほんっとそれね。迅くんわかってる」
太刀川さんは慌てながら俺なんか変なこと言ったか!?と言ってるあたり、相当この人は鈍感なのか何も考えていないのか...おそらく後者だろうな。
俺はその太刀川さんの姿を見ながら苦笑をして、さらにその後に視えた未来にも苦笑をした。
「だってお前んとこ強いのに、違う方に力入れるから下位なんだって!!」
「はいはい、A級1位は余裕ですな」
「そういうんじゃなくって!!あーもう、なんで分かんねーかな!?」
むしゃくしゃする!!と叫んでいる太刀川さんを呆れながらもわかってるという雰囲気で笑う井伊さん。
小早川隊は、戦法も頭脳戦を主に使う部隊だから、技術部門や研究部門にも所属しているのは仕方ないことだ。きっとそれは、本職をどっちにするかを迷ってのことだし、それを外部の人間がとやかく言えることじゃない。
俺もそれをわかっているし、太刀川さんの気持ちもわかる。
もったいない。
そういう気持ちは、ライバルとしても味方としても、思ってしまうのは仕方ないのだ。
少し目を伏せて、そういえばと俺が口を開くと、井伊さんだけがそれに気づいて、ん?と視線を投げた。
「もうそろそろ小早川さん「おい太刀川」
やってくるかも。
そう言いたかった言葉は突如現れた、つなぎを着た無駄にイケメンのこの小早川颯に遮られた。
太刀川さんの頭に拳ひとつを叩き入れ、痛さにうずくまる太刀川さんを呆れながら見下ろす小早川さん。
「お疲れさまです小早川さん」
「おう、本部に顔を出してるのは珍しいな、お前」
「ちょっとね」
「そうか。雪」
「はい?」
井伊さんの名前を呼んで、小早川さんは太刀川さんの髪をわしづかむ。
「こいつと少し話してくるから研究の方終わったらミーティングな」
「はいはい」
苦笑をこぼしながらも答える井伊さんに、さらに小早川さんは続ける。
「あと当真がお前のこと探してた」
「勇?」
「あぁ」
それじゃあと片手だけあげて太刀川さんを無理やり引っ張っていく小早川さん。
俺にもじゃあまたなというと、痛い痛いと叫ぶ太刀川さんをガン無視しながらC級の模擬戦ブースへと入ってくのだろう二人を見つめる。
「あ、井伊さん」
「ん?」
同じく呆れながらそれを見ていた井伊さんに声をかける。
井伊さんは白衣のポケットに片手だけを突っ込んでいた。デキる女って感じだ。こういう時は。
「当真なら多分もうそろそろ井伊さんのこと見つけてやってくるだろうし、研究室の方にいた方が手っ取り早いよ」
「あ、そう?じゃあ私ももう行くわ。ありがとね、迅くん」
「うん」
研究室で当真が井伊さんの後ろから抱きついて井伊さんの研究が滞っちゃうから早く行った方がいいよ、とは言わずに、俺は彼女の後ろ姿を手を振って見送った。
(雪ーーーどこ行ってたんだよお前ーーー)
(ごめんごめん、てかどさくさに紛れて胸揉むなバカ)
(探してたんだゾーーーーー)
(もう、実験できないから離れなさい!!)
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