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オレの朝はいつも寝ぼすけな幼なじみを起こすとこから始まる。



「おら、起きろグズ。もうとっくに起きる時間すぎてっぞ!」

「んあぁ〜……んにゃ……あと5分……」

「起きろっつってんだろ!」

「いってぇぇぇっーーーーーーー!」



コイツは藤堂平助。一応オレの幼なじみだ。年は1つ上のはずなのに朝に弱く昔からこんな感じでオレに叩き…いや蹴り起こされるのが日課となっている不憫な男だ。



「てぇ〜…おい…綾萌…お前もうちょい優しく起こせよな。」

「平助の場合優しく起こしたところで起きないだろ。それにオレの性に合わない。」

「お前さぁ………」

「なんだよ?」

「……あぁ……いや何でもない。」

「? どうでもいいけどさ早くしないと千鶴が<ピンポーン>……あーあ。」

「いっ!?やっべぇ!!顔洗ってくる!!」

「おー。コケんなよー。」

「んな心配しなくても大丈ぶっどわぁーーーっ!!」

「はぁ〜……」


オレの朝はいつもこんな感じだ。ドタバタ過ぎて賑やかを通り越して煩い。オレとしてはもう少し静かに過ごしてみたいもんだけど、平助がいるから無理だろうな。

口でため息を吐きつつも役目を終えたオレはもう1人の幼なじみが待っている玄関へと向かう。



「平助ー、一応トーストはテーブルに置いてあるからなー。」

「おお、サンキュー!助かる!」



顔を洗い終えたのかバタバタとリビングに入っていきパンを咥えて出てきたかと思ったらまた慌ただしく階段を駆け上がっていった。

いつまで経っても子供だな、アイツは。

若干呆れた視線を2階へと向けもう1人の幼なじみの千鶴と合流する。



「よーっす、千鶴。」

「あ、おはよう、アヤちゃん。いつも大変だね。ご苦労様。」



苦笑しながらオレを労ってくれる態度に嬉しくなり思わず千鶴の頭を撫でる。千鶴はそれを当たり前のように少し頬を赤らめながらも受け入れてくれる。オレと千鶴じゃ10cmぐらい背が違うからすごく撫でやすい。

それに贔屓目無しに見てもこうして嬉しそうにはにかむ笑顔はすごく可愛いと思う。すごく女の子らしい。だからかな。庇護翼っていうものを掻き立てられる。守ってあげなきゃって思う。こういう子がみんなから愛されるんだろうな。



「悪ぃ!遅くなった!」

「あ、おはよう、平助くん。」

「おう!はよ、千鶴!綾萌もさっきっつうかいつもいつもありがとな。それと、おはよ!」

「はよ。ったく、先輩なんだから少しは早く起きれるようになってくださいね。」

「うぐっ、わ、わかってるよ。そんなことより早く行こうぜ。遅れちまう!」

「お前が言うなよ!」

「わ、あ、まっ、待って2人ともー!」



そっからは沖田に会ったり、沖田=遅刻ってことで全力で走ったけど門番である風紀委員の一さんと南雲にあと少しってとこで捕まり、平助が騒いでいたところを土方先生に見つかったりと朝から一気にどっと疲れたオレは重い体を引き摺り千鶴と一緒に教室へと向かった。



「良かった、間に合って…」

「お、おはよー……」

「おー、はよー、雪村、綾萌…って綾萌ものすごい疲れてないか?」

「聞いてくれよ、龍之介ぇぇぇっ!」

「どわぁっ!な、なんだ!どうした!」



オレの癒しである井吹 龍之介に泣きつき事の顛末を話す。そしたら苦笑しながら頭を撫でてくれた。やっぱ癒されるー。



「ははっ、朝から大変だなぁ、お前も。」

「だろ!?あー…ごめんな朝からこんな愚痴っちゃって。」

「いいよ、そんなん気にしなくても。それでお前が少しでもスッキリするならどーんどん吐いちまえ。」

「うぅ…龍之介ぇぇぇっ!」



うん、やっぱ龍之介のこのマイナスイオンがないと朝は始まらないな。



「あ、はい今日の弁当。」

「おー!毎日毎日ありがとな!くぅぅー!俺はなんて幸せ者なんだ!」

「ははっ、相変わらず大袈裟だな。いつもそれぐらい何ともないって言ってんだろ?」

「いーや!食べ物を粗末にする奴は天罰が下るんだ!お金がない俺にとっちゃ天からの恵みも同様だからな!だから綾萌には感謝してもしきれないぐらい感謝してるんだぜ!」

「そこまで言われると流石に照れるけど、そんなに喜んでもらえるなら作ったかいがあるってもんだよ。」

「あ、きっちり洗ってから返すからな!」

「毎回いいって言ってんのに。」

「せめてこれぐらいはさせてくれ。じゃないと俺の気が済まない。」

「真面目だなぁ。」



龍之介は芹沢さんって人のところに住んでいるらしくその人からお小遣いを貰っているらしいんだけど龍之介からあまりいい話を聞いたことがない。いつも「横暴すぎる!」って怒ってるし。…どんな人なんだろう?



「お前ら席につけ。HR始めるぞ。」

「うぉっ、やべっ。じゃ、またな。」

「おう。」



原田左之助、保健体育の担当でオレらの担任だ。気さくで誰とでも分け隔てなく接するから生徒達に人気が高い。それに背高いしイケメンだし。とにかくモテモテ。オレも好きだ。もちろん人間として。恋愛感情は全くと言っていいほど持ち合わせてない。オレのオアシスは千鶴と龍之介だけで十分だ。



「綾萌、お前もだぞ。」

「は?」

「だから平助が遅れそうなら置いてけって話だ。幼なじみだろ。」

「あぁ、うん。ま、こればっかりは性格なんで。」

「難儀な性格してんな、ほんと。」

「ですよね。自分でもたまにうんざりしてます。」

「ははっ。やっぱお前面白ぇわ。」

「どうも。」



義務感とか使命感とかそういの感じちゃうと自然と体が動いちゃうんだよなー。この性格のおかげで喧嘩とかも強くなっちゃってるし。千鶴と平助にはこのことは伏せてるけど。絡まれる度に本当に損な性格だと思う。

これもどこまで隠せるかどうか。

言っちゃなんだが喧嘩はかなり強い。初めて喧嘩したのは中学生ぐらいの女の子がいかにも柄の悪そうな不良達5、6人ぐらいに絡まれてる時。

その女の子が怯えてる姿を見た瞬間気づけば飛び出して庇っていた。そして何故か圧勝。それからそういう場面に出くわすことが多かったり、倒された奴らのオレへの報復だったりと仕方なくって時が重なって今に至る。どれもオレが1人でいる時にしか遭遇しない。ま、オレ的にはものすごく有難いけど。2人にバレるわけにはいかないし。



「くぁぁ〜…やっとお昼休みか。千鶴〜。」

「あ、は、はーい!あの、えっと、ごめんなさい!」



チラリと見ると千鶴が男子2人相手に頭を下げて謝っていた。……何でだ?



「千鶴、あの2人どうかしたのか?」

「あ、えっと、その、一緒にどうかって誘われちゃって…」

「あーなるほど。千鶴可愛いもんな。」

「ち、違うもん!そんなんじゃないよ!」

「ははっ、むくれても可愛いだけだぞ?」

「もう!アヤちゃん!」

「ご、ごめんって!いって、叩くなよ!」

「顔がすごく笑ってる!」



だって可愛いんだから仕方ないだろ。そんな顔真っ赤にしてたらからかいたくもなるって。

照れてる千鶴の手を取っていつもの場所へと向かう。廊下に出る時には千鶴も笑顔に戻っていて少し安堵する。千鶴はどんな表情でも可愛いと思うけどやっぱ笑顔が一番可愛いもんな。



「おぅふ、やっぱすげぇ混んでんな。」

「いつ見ても戦場みたいだね。」

「確かにな。オレ買ってくるからさ先に平助達のところに行ってろよ。オレも後で行くからさ。」

「うん、わかった。待ってるね。」

「おう、またな。」



さてといつもの買ってさっさと千鶴達と合流しないと時間無くなっちまうな。



「源さーん、いつものお願い!」

「おお、恍月くん、わかった。ちょっと待ってておくれ。すぐ用意するよ。」

「サンキュー。」



暫く待ってるとオレがお気に入りのメニューが運ばれてきた。突如周りがザワザワし始める。あー、最初に見る奴はびっくりするだろうな。男から見ても結構な量だろうし。



「…っと。そんなこと気にしてる場合じゃねぇや。早く千鶴達のとこ行かないと。」



プレートを持って足早に千鶴達を探す。なんせ人の量が半端ない。見つけるのも一苦労だ。…と思ったが案外簡単に見つかった。



「いってぇ……。なにも殴ることねぇじゃんか。」

「あんな大声出さなくても手振るぐらいでいいだろ。」

「手振るだけじゃわっかんねぇかもしれねーじゃんか!」

「隣で叫ぶな。煩い。」

「んなっ!?」

「相変わらず毒舌だね。アヤちゃん。」

「お前にアヤちゃん呼ばわりされる筋合いはない。黙って食ってろ。飯が不味くなる。」

「うわ、酷いな〜。」



「酷いな〜」とか言いながら目が笑ってるんだよ!コイツだけは好きになれない。人をどこまでもバカにしたような態度が気に入らない。思えば最初の第一印象から最悪だった。思い出したくもない!



「あっれ〜?どうしたの?僕の顔見つめちゃって。あ、もしかしてやっと僕のこと好きに「ならねーよ。頭沸いてんのか。」……だよね。知ってた。」

「お前らほんと壊滅的に仲悪いな。綾萌にここまで言わせる総司ってマジですごいと思う。」

「そんな褒めても何も出ないよ、平助。」

「いや、褒めてねぇよ!つか、いらねぇし!」

「平助、喋んな。」

「なぁ、お前ほんと俺の扱い酷くね!?もう少しくらい優しくしてくれたってさ〜……」

「千鶴とか龍之介みたいな可愛さ身に付けられたら考えてやらんこともない。」

「おぉっ!まじか!……って可愛さなんて無理に決まってんだろ!」

「じゃあ諦めろ。」

「こ、コイツ〜……っ!」



食事が終わり教室に戻ろうとしている時だった。新八っぁんに出くわした。ジャージ姿でいかにも体育教師って感じの熱血なタイプの先生だ。杜撰なところはあるものの楽しい先生だと思う。



「2人ともちょうどいいところに。実はだな……」



─────────



「……ああ、なるほど。彼は自分で届けるのが嫌で貴女方を利用したんですね。」

「え?」

「ふふ……。実は書類の提出期限が過ぎていたのですよ。私に怒られるのが嫌だったんでしょう。」

「……子供かよ。」

「ふふっ、そうですね。彼には後で言っておかなくては……。」



冷笑を浮かべる山南さん。普段物静かな人が怒ることほど怖いことはないよな……。

にしたって提出期限を過ぎたものを他の人に、ましてや教師が生徒に任せるのはどうかと思う。

山南さんと談笑していると後から山崎さんも混ざって時間的にその場はお開きとなった。

午後の授業も滞りなく終わり放課後となる。



「千鶴ー、また明日なー。気をつけて帰るんだぞ?」

「もう私そんな子供じゃないよ!」

「ついつい可愛くて、な?許せ。」

「も、もう…。」



千鶴を少し堪能してから部活に向かおうと廊下に出ると何故か騒がしかった。

これから意気揚々と部活行けるってのに頭痛くなってきた。原因はわかってる。



「なんだ、貴様。雑魚ごときが俺の道を塞ぐとはいい度胸をしている。だが生憎と貴様と関わっている時間はない。俺は忙しいのでな。そこをどけ、愚民。」

「それで、あーそうですか、ってどくバカはいねぇんだよ。」

「貴様、俺を愚弄しているつもりか?」

「その頭でよくわかったな。」



風間 千景とそのお供の天霧 九寿と不知火 匡。事あるごとに千鶴に絡んでくる厄介なこの御三方はこの薄桜学園の生徒会長と生徒会メンバーだ。

どういう経緯なのか千鶴をいたく気に入っていて「俺の嫁になれ」と意味の分からん戯言を並べては度々千鶴に迫っている。

そんなん許すわけにいかないだろう。千鶴がいいならまだしも、明らかに迷惑そうな顔しかしてない。

そうして訳の分からん茶番がいつも繰り広げられる。人の話なんかこれっぽっちだって聞いちゃいない。

そして言いたいことだけ言って去っていった。毎回嵐みたいな奴だな。



「千鶴、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。いつものことだし。いつかはわかってくれると思うから。」

「いや、無理だろ。」

「うーん、やっぱり?」

「あんま変な奴に絡まれるなよ?ちゃんと真っ直ぐ帰ること、いいな?」

「はいはい、了解です。」

「じゃーな。部活行ってくる。」

「うん、頑張ってね。」

「おうよ!」



よーし!部活でモヤモヤ払拭するか!誰に相手してもらおうかな?


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