ホワイトデー〜アズサ君の場合〜
本日3月14日ホワイトデー。
私は最愛のアズサ君からとんでもないものをお返しとしてプレゼントされてしまった。
「ふふ…花子さん、いつも可愛いくしで髪…とかしてたから……これだったらもっと可愛いかなって…」
「わ、わぁ〜……あり、ありがとうアズサくーん……うれ、うれ…うーれしい…」
ふわふわニコニコと嬉しそうにしているアズサ君には申し訳ないけれど
私は顔面蒼白震え声である。
だってだってくしの贈り物ってあのあの…最高に縁起悪い贈り物として有名だからね!?
くしをプレゼントするって言うのは「苦」や「死」…さらには「別れ」を意味するってよく聞く…
そ、それをよりにもよって愛の証にとチョコを捧げたお礼に贈られた私の気持ちを考えた事があるだろうか!!
こんなのもはや嫌がらせ意外の何物でもない…ないけれど、きっとアズサ君には全く持って悪気がない。
悪気がない分この贈り物の意味を無駄に…一方的に知っている私は一人で心の中で孤独な葛藤を繰り広げてしまっているのだ。
「ん?アズサ…それに花子。ああ、そう言えば今日はホワイトデ…………アズサ、ちょっと来い」
「?ルキ……どうしたの?」
「いいからはやくこっちに来い。今回ばかりは花子に同情する。」
ガタガタとひとりで震えていればたまたま通りがかったルキ君が私の掌のくしを見つけて全てを悟ったようなため息をついてアズサ君を呼ぶ。
あ、嗚呼…どうしよう。アズサ君に真実がばれてしまう。
私がこんな無駄な知識さえなければこの可愛いデザインのくしも純粋に喜べでめでたしめでたしで終われたのに…ううう私の馬鹿。
変な事気にしないで「アズサ君からの贈り物」っていう所だけを受け取ればいいのにそれが出来ないなんて…まだまだだ。
じっとルキ君とアズサ君の背中を不安な気持ちと申し訳ない気持ちで見守っていれば。
数秒後、ビクリとアズサ君の体が揺れたかと思うとすぐにその体はわなわなと震えてしまって小さな声で「どうしよう」って聞こえてしまった。
うう…アズサ君がルキ君の言葉によって真実を知ってしまったようだ。
「あ……あの、アズサ君」
「花子さん………っ、ご、ごめ……俺……俺…」
もうその場でじっとしているだけが申し訳なくなっておずおずとアズサ君の背中に声を掛ければ
ゆっくりとコチラを振り返ってくれたその瞳は涙で濡れていて、私の良心はこれでもかって言う位めった刺しにされてしまった。
「う…ううん!いいの!!わ、私気にしないっ!!アズサ君が私の為を思って選んでくれたんだからそんなくしの意味なんてそんなそんな!」
「やっぱり…知ってたんだね……だからさっき震えて……うぅ…俺は大好きな花子さんになんていう贈り物を……」
「あ……あああああどうしよううううう」
気にしてないよってフォローしたけれどそれが裏目に出てしまって
アズサ君の目から涙が枯れることは無く、とめどなくぽろぽろとこぼれてしまって私は大慌て。
私に酷い意味の贈り物をしてしまって悲しんでくれているアズサ君だけれど
私はそんな優しいアズサ君が悲しんでいる事実の方が酷くつらくて苦しい。
「アズサ君……」
「うぅ…花子さん……ごめん、ごめんね………」
「………………ああ、そう言えば」
ずっとぐずぐずと泣いてしまってるアズサ君を見つめているとこっちまで悲しくなってきちゃって
私までじわりと涙を浮かべれば、それを見ていたルキ君が大げさな咳ばらいをしてもう一つのくしの贈り物の意味を教えてくれた。
「くしは苦しむと言う意味もあるがそれを贈るという事は苦しい時も一緒に居てくれと言う意味らしい…だからそれを受け取った瞬間それは合意とみなし、結果プロポーズを受けると言うものになるらしい」
「え」
「え」
ぼふんっ!
ルキ君のそんな一説を聞き終えた私達はさっきまでの涙は引っ込んで
その代わり一気に顔を赤くしてしまってお互いにじっと見つめ合う。
苦しい時も一緒に……嗚呼、確かにアズサ君となら私は苦しい時も一緒に寄り添う事が出来たらとても素敵だと思うけれど。
でも……アズサ君はそんなつもりでこのくしをくれたわけじゃないし…
悶々とそんな事を考えていればじっと私を見つめてくれていたアズサ君はふにゃりと笑って
動揺しまくっている私の唇をそっと塞いでしまう。
「アズ、」
「ねぇ花子さん…やっぱりこのくし……うけとって?ルキが言ってくれた…意味で。」
そっと離されて、また唇くっついちゃうんじゃないかって言う距離でそんな台詞。
私はもう限界だって思ってぎゅうぎゅうと贈られた不吉な意味が沢山込められたそのプレゼントを愛おし気に抱きしめた。
「うんっ!勿論受け取っちゃう!!」
後日、無神のお兄ちゃん勢が私とアズサ君の結婚式はいつにするとかハネムーンはどこがいいとかで
最高にもめて大喧嘩になってしまったのはまた別の話。
……そういうのは正直アズサ君と一緒に決めたいです。
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