ホワイトデー〜カルラさんの場合〜


「物騒すぎる」



「貴様、私の贈り物にけちをつけるのか…いい度胸だ」



「だってこれは流石にないでしょ!?てかカルラさん、この贈り物の意味わかってます!?そんなに私の事お嫌いですか!?」




ガタガタと彼の贈り物を手に小刻みに震えていれば
あからさまに不機嫌なお顔になってしまう始祖王に恐れ多くも文句を喚き散らす。
一般人の私が始祖王であるカルラさんに意見なんて生意気だと思われるだろうけれど今回ばかりはそうはいかない…だってこんなのあんまりだ。
私の手の中で冷たく、鋭く光ってしまうそれにじわりと涙が浮かんできそうだ。




「刃物を贈るって事はその人と縁を切りたいって事ですよ!?なんなんですか遠回しに別れ話ですかしかもホワイトデーに!?始祖王が悪趣味すぎて泣きたい!!」



「喧しい黙れ花子」



「だ、黙っていられるか!割と修羅場だって言うのにのんきにヘラヘラしてられるかカルラさん大好き別れたくないよおおおお!!」



今日は3月14日、ホワイトデー。
先月のバレンタインデーに下等で愚かでグズな只の一般人は余裕で最愛である高貴な王に手作りチョコを押し付けたけ。
偉大で高貴な王だろうが何だろうか彼は…カルラさんは私のだいすきなだいすきな彼氏なのだ恐れ多いとかいう感情の前に好意が勝ってしまった。
そして事もあろうかその日にホワイトデーもちゃっかり催促してみればこの結果だ。
く、くそう!そんなに私と一般的なカップル行事をするのがうざかったのか始祖王様!!つらい!悲しい!!!




「ううう……そ、そんなに私とラブラブいちゃいちゃするのが嫌だったんですかカルラさん………」



「はぁ………花子、やはり貴様は愚かで愚鈍だな」



酷い意味の込められてしまっているものでもだいすきなカルラさんからの贈り物と言うのは変わりはなくて…
縁を切りたいと無言で送られてしまったその綺麗な装飾の鋏をぎゅうっと抱き締めてその場でへたり込めば
呆れ切ったため息と共に私の前に影が出来る。




ちらりと視線を上げれば愛しの始祖王が困った表情でしゃがんで私に視線を合わせてくれていた。




「カルラさん?」



「確かに刃物の贈り物は縁切りの意味もあるが……貴様は表面上しか見ることが出来ないようだ」



ひょいっと私の腕の中の鋏を取り上げたと思えばどこからか取り出した紙をそれでシャキリと切ってしまった。
ああ、ホラ…切れてしまう…という事はカルラさん、そういう事でしょう?
じわりと涙を浮かべてしまうとやっぱりカルラさんは溜息をついてしまう。




「刃物の贈り物にはもう一つの意味がある…………運命を切り開く、」



「運命を切り、開く?」



「ああそうだ。花子……私は貴様と一緒にこれから先の運命も切り開いていきたい」




しゃきしゃきと鋏を弄びながら彼は意地悪に微笑んで少しばかりわざとらしい口調で
その表情と同じく意地悪な言葉をたくさん並べてしまう。




「貴様は私を始祖王と敬う以前に普通の彼氏扱い…先月寄越した甘味も味も大したものではないのに手作りで……つくづく私を下に見ているとしか思えない」



「うー…ううー…うー!」



そんなひどい言葉のオンパレードについに私の涙腺は決壊してしまって
目からぽろりとこぼれた涙は床に落ちてしまう前にそんな意地悪な王様の唇に掬われて消えた。




「そんな始祖王ではなく月浪カルラだけを愛する貴様とならば……共にこれからの運命も切り開ける…切り開きたいと思ったから、これを贈ったのだ、花子。」



「か、カルラさん……」



「花子………私と共にこれから先…困難があろうともこの鋏の様に切り開いていってはくれないだろうか」




そっともう一度差し出されたの鋭利な刃物…
けれど先程とは違ってその輝きが酷く暖かく見えてしまうのは彼の魔法の言葉がかかったからか
それとも私が単純な単細胞だから…もしくは両方か、
馬鹿な私には理解が出来なかったけれど、その単なるチョコレートのお返しにしては予想外に重い真意の込められた縁起でもないそれを受け取って微笑んだ。




ねぇカルラさん…これじゃぁちょっとしたホワイトデーって言うよりも
プロポーズのリハーサルみたいですなんて言ってしまえば貴方は怒ってしまうでしょうか。





「あれ?花子なにその鋏。まさか兄さんから……」



数日後、彼の弟に贈り物が見つかってしまい、顔面蒼白で心配してくれたけれど
この贈り物の少しばかり深くて重い真意を知っている私は只々苦笑するばかり。




「そうだよね、やっぱ縁起悪いよねぇ」




けれどこの縁起の悪すぎる刃物の中に
少し基準がぶっ飛んでしまっている私の彼氏の想いが沢山詰まっているのは少しナイショにしていたかったりする。




始祖王云々以前に単なるチョコのお返しにここまで真剣に考えてくれてしまう
可愛い可愛い私の彼氏の思考は私だけのものにしていたいのだ。



戻る


ALICE+