ホワイトデー〜シン君の場合〜


「はぁ?始祖のこの俺が人間の花子にお礼?ないない。」



「おう上等だ先月のチョコ吐き出せ」




ぎりぎりぎりぎり




「イタイイタイイタイ!い、一か月前のものとか返せるわけないだろ!?花子はバカな訳!?」



3月14日愛しの彼氏が先月のお返しをよこすそぶりも見せないので
いい加減イライラしてしまってどういうことだと問い詰めればこの反応。
好きで好きで溜まらないシン君だからと言っても私は優しい聖女でもないのでビキリと顔面に青筋を浮かべてその高貴で崇高な始祖様のお首をぎりぎりと締め上げて一か月前の愛の塊の返却を求めた。




「もう…そんな見返り目当ての贈り物だったの?あれ。…結構ショックなんだけど俺ー。」



「そうじゃないけどさ……何ていうかシン君がそういう考えってのが寂しいだけ。」




漸くその首から手を離してため息をつけば少しばかりむせながらも涙目で私を睨んできちゃうシン君にもう一度ため息。
別に見返りを求めてたわけじゃない。…少しは、期待してたけど。
確かにお返しを用意してくれてなかったのもショックだけど、それ以上にその理由が酷く私の胸を抉ってしまった。




「まだシン君の中で私は只の人間で、シン君は始祖様なんだね」



「花子…………」



想いが通じ合って恋人同士になったと思っていたから2月14日、私は自分の中の想いを沢山込めてチョコを送った。
だから期待したんだ…今日、シン君からも何かに彼の想いを込めて私に贈り物してくれるんだーって…
なのに彼の口から出た言葉は始祖の俺が人間の花子に贈り物なんて…
嗚呼、距離が縮まってはしゃいでいたのは私だけだったのか。




「はぁ、ちょっとこっち来なよ」



「え?あ…ちょっと!」




考え始めたらどんどん悲しくなってしまって、けれど種族の違いなんてそうやすやすと超えられるはずはないのも分かっていたので悲劇のヒロインぶるつもりはない。
なので涙の替わりにもう一度ため息をつけばシン君はそんな私を見つめてぐいと乱暴に私の手を引っ張った。






「…………シン君?」



「はい、チョコ。俺にはどのプレゼントがいいのかとかよくわかんないからね。」



こつんと私の額を小突いたのは板チョコ。
本当にどこにでもあるような……何の変哲もないチョコ。




「……いいよ、嫌々くれてもちっともうれしくないし。」





私の意見を尊重してくれただけでもシン君にしてはすごく歩み寄ってくれているはずなのに
どうしてか私はそれでも不機嫌に頬を膨らませてしまう。
嗚呼、素直に喜べないこういうのがめんどくさい女心と言うやつなのだろう。
私の言葉で譲歩して贈られるものより、シン君が自分でちゃんと考えて私に贈り物、してほしかったのに。



「あーもうー拗ねるなって!…………こういうの、貰ったままでいいんだって思ってたんだ。」



「え、ちょっと最後聞き取れなかった何?」



「もう煩いなぁ!花子は黙って受け取って光栄ですって泣けばいいんだよ……彼氏の俺からのプレゼントって、」



「……っ!」




ぼそぼそと呟いた彼の最後の言葉が聞き取れなくて首を傾げたけれど
どうしてだかごまかす様に喚いた彼の言葉は今度こそ最後まで聞こえて……




「あーあ、ホントに泣いちゃった。……馬鹿だね花子は」



「だ、って…かれ……彼氏って…彼氏ってぇ」



「だってホントの事でしょ?俺は、立派な始祖の前に花子の彼氏……そうだよね?」





他の人から聞けば些細すぎる…本当に些細すぎるその台詞に織り交ぜられた単語に私の涙は溢れて止まらない。
嗚呼、よかった……シン君、私の隣に立ってくれてる。
始祖と人間じゃなくて…ただの恋人同士として隣に。




「あり、がと…シン君…コレ、大事にする」



恋人として初めてくれたプレゼント…
どこにでもありそうな板チョコをぎゅうっと大事に抱き締めて彼の言う通り感謝の言葉を口にした




「………」



「シン君?」



「やっぱりヤダ。でかけよ?今からだとホワイトデー終わっちゃうけどさ、そこは我慢してよ」



「え、あの、え?」



そんな私の顔をじっと見つめていた彼がむすっとふくれっ面をしてもう一度ぐいっと私の腕を引っ張るけれど
今度は一瞬ではなくてぐいぐいと私を部屋の外へと連れ出そうとするので頭に疑問符。
え、なんで?もうプレゼント貰ったのに…
彼の行動の意味が分からずきょとんとしていれば不機嫌なのに顔が真っ赤なシン君からすっごく可愛い言葉が消えた。




「だってそんなどこにでもある板チョコでそこまで感動されるとかなんか……なんか彼氏としてヤだ!」



「!?」




ずんずんと外へと向かう彼のそんな言葉に私の体温は急上昇。
彼氏の自覚が出たのは良いけれど……出すぎて私をドキドキさせまくるのはちょっと勘弁していただきたいと
大きなシン君の背中を見つめて、それもまんざらでもないけれど
なんて、ひとり小さく笑って大幅なその歩幅に必死についていった。



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