生きながら、死んでいよう


もう何度彼と季節を廻ってきただろう…



もう何度彼と一緒に回らない時計を見つめてきただろう。




もう何度…




「花子、」




「シュウ、」



ぼんやりと巡りゆく季節を窓越しに見つめていれば背後から柔らかな声が聞こえたのでゆっくりと振り返る。
すると相変わらず眠そうな表情でコチラをじっと見つめる最愛の姿がそこにあった。
それはもう何十…何百年経った今でもあの日と変わらないまま…



「何見てたの?」



「ええと、桜……今年も散っちゃったなぁって」



「ああ……もうそんな時期……ふあ、」




背中から包み込まれるように抱きしめられて
肩に顎を乗せられそこで話されるので少しくすぐったい。
けれどそんな少しばかり可愛らしい猫のような彼の行動に愛しさを感じるのはもう今に始まった事ではない。



「もうこれで何回桜、散ったっけ……」


「大体100……いや、200…?忘れた、」



「ふふっ……それだけ一緒に居るんだね。私達…」



ぐりぐりとそのまま私の肩に顔を埋めながら応えてくれるこの言葉に
どれだけの時間、私とシュウが一緒に居るかを実感させられて静かに微笑みを漏らしてしまえば
彼はそんな私をじっと射貫く。
嗚呼、別に今更人間を捨てたことに後悔はしていないから安心してよ。



「これから何百、何千と…桜散るの……一緒にみたいな。」



「…………咲くのは見なくてイイ訳?」



「シュウから人間らしい言葉、聞くのって珍しい…ふふっ」



「あんたに毒されたんじゃない?……くくっ」





私を抱きとめる腕にそっと手を宛がいじっともう一度外の散りゆく桜を見つめて呟けば
彼は咲き誇る桜はいいのかと問いかけてくれる。
そうか…シュウは散っていく…死にゆくものだけじゃなく
生まれる…咲いてゆく者たちも一緒に見てくれるのか……




そんな優しい発言、昔の彼からだと考えられなかったのに




私が人間の頃からずっと傍にいてくれたから、
彼の考えが少しだけ変わってくれたと言うのならこれほど嬉しいことは無い。




「シュウ、変わったね」



「そう?……外見は変わってないと思うけど」



「それは私も同じかな。」




そっと手と手を、指と指を絡め合って微笑んで…
こんな毎日がずっと永遠と続くんだと思うと今更もうなくなってしまったはずの心臓が跳ね上がる気がした。
彼と永遠を生きると誓ってから、私の覚醒は本当に早かった気がする。




「花子、これからもココから巡る者を一緒に見ような」



「うん、約束…」




窓ガラスにそっと触れて外の景色を二人で穏やかに見つめる。
私達の時間は止まっているから…時間の外側にいるから
その、大きな時間の中で生きて死んで巡っていく彼らをこうやって離れた所から見るばかりである。
それはこちらが取り残されてしまったようで少しばかり寂しいけれど…




「花子、」



「シュウ…?」



不意にそっと塞がれた唇はやっぱり温度がなくて…
私達が生きたままの屍だと思い知らされる。
けれど…それでも悲しさも寂しさも全て覆いつくすくらい幸せなのはこうしてあなたが傍にいるから…




「これからもあんたと手を繋いでキスして笑って……そして体繋げてずっと生きながら死んでいたい。」



「最後が余計だけれど……うん、私もシュウとずっと一緒に生きたまま死んでいたい。」





これからもずっと一緒にこうしていようと互いにもう一度唇を重ねて
お互いにふわりと穏やかに微笑んだ。




ずっとこの先、貴方と二人で死んだまま生きて…
時間の外側から巡る季節を見つめて微笑んでいきたいと、





そう、切に願う
桜の散る季節。



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