からっぽ


暖かいこの季節





私は今日、
最愛のルキ君とサヨナラをした






「あっけなかった…」



ぽつりと独り部屋でつぶやく言葉…
それはもう誰にも拾われる事ないまま静かに消えてしまった。




ルキ君と愛し合った日々…
それは確かに幸せだったし、「ずっと一緒」と言う言葉もきっとそう紡いだ時はお互いに本当にそう思っていた。
只、それはこうも簡単に壊れてしまったわけだけれど。




「イブさん、ね」



ルキ君と私を引き裂いた本名も顔も知らない女性の通称を呟いてため息。
別に彼女が悪いと言う訳ではない。
ルキ君が私より彼の神の願いを叶えたいと思ったから…そして私もそんな彼の邪魔になりたくないと願ったから
こうして二人は離れる事になったのだ。




「捨てよう…」




チラリと視界に入った彼にプレゼントされた可愛いネックレス。
嗚呼、それだけではなく
私の部屋には彼との思い出が多すぎて……
このままだときっと幸せで暖かだったソレに押しつぶされて死んでしまうと
小さく息を吐き、大きなゴミ袋を手にとった。





ガシャリガシャリ





付き合い始めて初めてもらった贈り物…
「家畜にはこれが似合いだろう?」
といやみったらしく渡された首輪と言う意味のあるチョーカー





「俺は写真は苦手なんだ」
とごねる彼に必死にお願いして一緒に写ってもらった
唯一のツーショット写真




「花子はいつだってだらしがないからこれを持っていろ」
って呆れたように笑いながら渡されたスケジュール帳




「今日は……その、花子…記念日だから」
と柄にもなく少しばかり照れた彼に付き合いだして一周年で贈られた薔薇…
ずっと大切にしようって一輪だけ推し花にしてた





「ぅ……ふっ…」



次第に漏れる嗚咽はどんどん大きくなっていき
同時にぽたりぽたりと大粒の涙も一緒にゴミ袋へと吸い込まれていく。




嗚呼、すき…だいすき、愛してた




「ルキく……うぇ、」




彼との思い出も贈り物も
彼の為に流す涙も全部全部ゴミ袋…
そうだ、今日で全部彼に対する全てを捨ててしまわないと、私が壊れてしまう。




“花子、”




「うええええ、ルキ君……やだよ……離れたくなったよ…」



独りぼっちで彼に関する全てを捨てながらようやく吐き出せた私の本音。
でもそんなの全部遅い……私もルキ君も互いにサヨナラするって決めたんだ。




頭の中で響いた最後の彼の声は
甘く、優しく私の名前を呼んでふわりと消えてしまった。







「……………何もない。」



全て捨ててしまって、酷く泣きつかれてもう涙も出ないまま
部屋の隅で力なくへたり込んでぽつりと呟いた言葉には生気さえなかった。




それなりに彩られていた部屋は今…
どうしようもないくらい空っぽで、
同時に私の胸の内も頭の全部からっぽだ。




嗚呼、どれだけ私と言う個体に貴方が入り込んでいたのかが痛いくらいに分かる。
だってホラ……




「からっ、ぽ…」





私の中から貴方を抜き去ったら
こんなにも私は…私の世界はからっぽだ。




「ルキ君………」




私は本当に貴方を愛してたよ?
今……ルキ君も私と同じようにからっぽでいてくれてる?
そんな悲しすぎる願いを抱いて小さく目を閉じた。




彼は神を
私は彼を優先する余りに招いてしまった悲しすぎるエンディング…




ねぇ、私はこんなからっぽのまま
また貴方の様に誰かを愛することが出来るのでしょうか?



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