悪戯の先に
「おじゃましまーす…」
深夜…真っ暗な最愛の部屋に忍び込んでにやにやと悪戯っ子みたいに笑う俺は普段スーパー人気アイドルコウ君です。
普段ならこんな泥棒みたいにこそこそ忍び足で彼女の部屋に入ったりなんかしない。
「花子ちゃーん…」
吸血鬼は夜目が効くのでこんな暗い場所でも俺は真っすぐに目的地へと向かう。
目的地…花子ちゃんのベッドまで辿り着けばあどけない表情で気持ちよく眠っている彼女を捕らえてますます悪い顔になっちゃう。
彼女は…花子ちゃんは俺の事が大好き。
大好き過ぎていつもデートとか勿論そうじゃない時も俺と一緒に居るだけでとっても嬉しそうに笑う。
だから……そんな大好きな俺が眠っている間に彼女のベッドに忍び込んだらどうなるかなぁってちょっとした悪戯心が芽生えたんだ。
もぞもぞと静かに花子ちゃんが眠っているベッドに潜り込んでじっと彼女の寝顔を堪能しちゃう。
ううん、やっぱり可愛いなぁ…
目を覚ましたらこの顔がどうなっちゃうのかが楽しみで仕方がない。
驚いて大きな声を上げちゃうか
それとも恥ずかしくて真っ赤になっちゃうか…
もしかして嬉しすぎて泣いちゃうかも!?
「(ふふふ、楽しみだなぁ…)」
どんなリアクションもきっと満足させてくれるものだと確信して
俺も彼女の可愛い寝顔を堪能しながら静かに目を閉じた…
「…………」
「………痛いんだけど」
朝、俺は何故かベッドの上で正座を強要されている。
しかも頭には特大のたんこぶ。
解せぬ……こんなの俺の望んだ可愛いリアクションじゃない!!!
聞いてない……こんなの全然聞いてないんだけど!?
あれから数時間後、ゆっくり目を覚ました花子ちゃんはその数分前に起きてた俺のそわそわした顔のドアップに数秒固まったかと思えば
その後頭にとんでもない衝撃が走りその後すごく怖い彼女の威圧に気圧されて現在に至る。
……なんだよ。俺の事大好きなんだったらー、別にベッドに忍び込んでもいいじゃん。もっと喜んでよね。
「むー……花子ちゃんのケチ」
「…………コウ君」
「はい」
むすっと唇を尖らせて、俺の思い通りな反応をしてくれなかった彼女に小さく不満を漏らせば
とんでもなく低い声で名前呼ばれちゃったので正座のままピシリと姿勢を正す。
えええ、なんで花子ちゃんこんなに怒ってるの…俺そこまでの事した!?
じっと次の彼女の言葉を待っていれば
更に俺の予想斜め上を言っちゃう花子ちゃんのトンデモ発言に思わず吹き出しそうになる。
「ねぇコウ君。私はコウ君の事が大好きなの。なのに何でベッドに入ってきちゃうかなぁ!?襲われたいのかなぁ!?私に!!!」
「え?」
「女の子だって大好きな人が起きて目の前に居たら我慢できないよ!?そんなの男の子だけじゃないからね!!!わかる!?コウ君がどんだけ自分の身を危険に晒したのかが分かるかなぁ!?」
「ちょ、」
「ねぇコウ君……もっと自分を大事にしようよ。」
「ぶはっ!!」
彼女のぶっ飛んだマシンガントークは止まらずに、
いかに自分が俺の事大好きなのかと、結構な具合でそういう意味で我慢しちゃったのとでも大好きな俺を大事にしたいって気持を一気に吐き出しちゃうけれど…うん。
ねぇ花子ちゃん、それだと俺がなんだか彼女みたいだね。
「あは…っ、あははは!花子ちゃ……ちょっともー…さっきまで俺拗ねてたのに笑い止まらないよあははははは!!!」
「ちょっと!!!コウ君私は真剣に…っ!」
「う、うん……し、真剣に俺が大好きで大切で……でもムラムラしちゃったんだよね…あははっ」
もう余裕で我慢の限界を迎えていた俺は正座のまま彼女の妙な心の葛藤のカミングアウトにゲラゲラと大きな声で笑う。
彼女はそんな俺を見てちょっぴり不機嫌に反論するけれど俺の笑いは止まらない。
ああもう、だ、大事にされちゃってる…俺、予想外に大事にされすぎちゃってる!!!
けれど、うん。
彼女はちょっぴり思い違いをしているようだ。
「もうもう!コウ君ってば…!……?」
「あー…笑った笑った。花子ちゃんてば俺の事大好き過ぎデショ。」
ひたすら笑い続ける俺に堪忍袋の緒が切れそうだったのか
少し先程より声を荒げた花子ちゃんをそのままベッドへと押し倒して
すっと声色を変えれば少し見開かれた彼女の目に映る俺の表情は自分で言うのもアレだけれど朝に似つかわない位妖艶だ。
「俺は花子ちゃんに大切にされる程か弱くないし……寧ろ自分の心配しなきゃいけないのは花子ちゃんじゃない?」
「コウ君?」
そっと俺の名を紡ぐ唇を指でなぞればくすぐったかったのか
ピクリと揺れるその体に俺のスイッチは完全にオン。
もうこうなったら止められないからね?
「大好きな大好きな恋人が俺の顔を見てそういう気分になったって聞いて……我慢できる男なんて、いないと思うけどなー。」
「え、あ……」
「それこそ襲われたいの…?って聞きたくなっちゃう……ていうか襲っちゃうけどね。」
クスクスと笑いながら先程彼女が俺に放った言葉をそのまま本人へと返す。
こんなその気になったらすぐに俺に押し倒されちゃて抵抗も出来ない可愛い君に大切にされちゃうのは光栄だけれどちょっぴり心外。
ねぇ……俺って可愛いだけじゃないんだよ?
「ほら、花子ちゃん……朝だけど愛しまくっちゃうから覚悟…してね?」
ちゅっと可愛らしいリップ音とは裏腹にもうスイッチの入ってしまった俺を止める事は出来ないと悟った彼女の表情は俺につられて徐々に妖艶なものへと変わっていく。
うんそういう顔……俺、けっこう好きだよ。
俺の事大好きな彼女のリアクションは全く持って俺の想像した可愛いものではなかったけれど
まぁこういう花子ちゃんも結構嫌いじゃないな…なんて胸の内で笑って手始めにその綺麗な首筋に開始の合図としてブツリと牙を深く深く差し込んでやった。
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