ハッピーファミリー計画


「花子……なぁ、もう…いいだろ?」


「シュウ君…」




ぎゅうと最愛に抱き締められて囁かれた懇願の言葉に
嗚呼、もう私達は清いままの関係ではいられないのだと悟り静かにその広い背中に手をまわした。
…別に今まで拒んできたわけではなくて、只互いにタイミングを掴めなかっただけ。



「シュウ君……んむ…ぁ、」



「花子……花子……」




何度も何度も角度を変えながら深く唇を塞がれて次第に力が抜けて行ってしまう。
薄らと瞳を開ければ熱を孕んだ彼の視線と交わってしまって酷く恥ずかしい…
嗚呼、今日…ついにシュウ君に抱かれてしまうのか…




そう思った瞬間ふと、大事な事が脳裏を過り
そっと唇を離しておずおずと彼に問いかける。




「シュウ君……そう言えば、ゴム…は?」



「?」



「……………ん?」




愛し合うに至って最低限のマナーを問いかければ
彼はきょとんとしたまま首を傾げたので私は思わずビシリと身体を固めた。
え、なに……ちょっとまってシュウ君まさか、




「え、ちょっと……生でスるつもり?」




「?それ以外に何があるんだ?」




「え、あの、えっと…ほ、ホラ…そ、外に出すにしてもあの、万が一って事もあるからええと」




「?俺は花子の中に出す気満々だけど」





自分でこんな恥ずかしい事を言うものあれだったけれど
大事な事だし途切れ途切れ彼に訴えればシュウ君は何を言っているのか分からないと言った感じで更に首を角度を深めるばかりである。
そして気付く互いの大きな認識の違い。



「え、やだよそんな大切にしてくんないならちょっと…シたくない」



「?今までの女は俺のすげぇ欲しがって強請ってきたんだけど…それでもくれてやらなかったのを花子の中に流し込みたい」




「………や、他の女の人とはちょっと違うって言うか」




「………花子は俺の、欲しくない訳?俺の事……嫌いなの?」




「いや、だから」



さっきまで甘い雰囲気だったのに今は彼を自身から引き離してベッドできちんと座って対面の形。
今までシュウ君が抱いてきた女性はどうやら倫理観が低いと言うかなんというか……もしくは吸血鬼ならではの考えだったのか
けれど私は普通の人間だ。今まで付き合ってきたシュウ君の彼女さん達よりかは至って真面目に彼とお付き合いしているつもり。



何度そういう事はきちんとしてほしいと話しても彼は一向に聞こうとしない。
それどころかひたすらに拒否の言葉を上げる私に何かを勘違いしたのか悲しそうに眉を下げるばかりだ。




「シュウ君の事は嫌いじゃないよ?だいすき…愛してる。でもね?もし万が一当たって覚悟もなしに赤ちゃん出来ちゃったらシュウ君も困るでしょ?」




なんでこんな事を女の私から話さなきゃならないんだ。
ある意味羞恥プレイとも言えなくもない恥ずかしすぎる言葉をさっきから紡がされてしまって
もはや私に嫌われていると勘違いしてしまっているシュウ君よりもこちら側が涙目だよもう。



けれどそんな私の言葉にシュウ君は只ひたすらに不機嫌、ふくれっ面を決め込む。
ううん、そういう可愛い顔してもこればっかりは駄目なんだからね。



「大丈夫、出来たら最後まで面倒みるから」




「そんな犬猫みたいにペット飼う訳じゃないんだよ?」




「やだ、花子の中で出したい。孕めよ。」




「ちょっと!!!!何その言い方!!!そ、そんなのあれじゃない私がまるでそういうあの奴隷的な扱い!!!」




「違う」




ぎゅううと私の体を抱き締めグリグリと肩口に顔を埋め擦りつけてくる彼は本当に可愛いけれど
言っている内容はとんでもないもので思わずビキリと顔面に青筋を浮かべて反論すれば響き渡る普段よりはっきりした大き目の声。




「シュウ君?」



「花子を全部俺のものにしたいだけ。孕めよ。そしたらもう花子はどこにも行かないだろ?それに…」



「…………?」





ぎゅうぎゅうと抱き締められる腕に力が込められて潰れそうで怖い。
彼の紡ぐ言葉は酷く必死でどれだけ私を愛して束縛したがっているのかが手に取るように分かってしまいほだされてしまいそうで怖い。
長男で弟には甘えないくせにこうやって私にだけ甘えて自分の気持を真っすぐに伝えるシュウ君は本当に狡い子だ。
けれどそんな彼の言葉が途中で途切れ、疑問に思い少し体を離してその顔を覗き込めば少しばかり頬を染めた可愛い彼がじっと真っすぐにコチラを見つめて最高の殺し文句。




「花子と俺とのガキなら……家族の愛を知らない俺でも、溺愛できると思うし。」



「シュウく……」



「な……だから、中に出させて?俺の……全部飲みなよ…」




只単に中に出させてほしいと懇願されているだけなのにそんな事を言われてしまっては
単純にも私の胸はドキリと高鳴ってしまって嗚呼、本当に自分は馬鹿だなぁと小さく笑って彼の唇にキスを落とす。
家族の愛を知らず、それでも渇望していた彼が私と家族を作りたいと言っている…これほど嬉しい事はない。



そっと唇を離し小さく微笑めば彼は私の意図がつかめずまた少し首を傾げてしまう。




「子供、何人がいいかなぁ……」



「……………何人でも。只男は嫌……俺の血が混じってるんだ。どうせ花子を取り合うだろ…めんどくさい」




「ふふっ…もう、男の子も女の子も産まれたらちゃんと愛してよ」




続けた私の言葉に彼は少しばかり嬉しそうに頬を緩ませちゅっちゅっと何度も頬や瞼…唇に可愛いキスを落としてくれるからくすぐったくて仕方がない。
嗚呼、こんな将来の事…シュウ君と話せるなんてしあわせだなぁ…
ぼんやりとそんな事を考えながらもゆっくりとベッドのシーツに押し倒されて嬉しそうな彼の頬にそっと手を添える。
シュウ君…すき、だいすきよ。
だから………だから、ごめんね?




もう既にその気な彼に小さく笑って彼にとっても私にとっても死刑宣告よりも辛いひとつの言葉を口にした。





「ん、だからとりあえずちゃんと私と将来の子供たちの為にも学校卒業してくれるまでは生は禁止かな?」



「……………………。」






ごめんね?シュウ君
私、やっぱりそこまで貴方が考えてくれて求めてくれているなら
ちゃんと貴方が一人の大人の男性になってからがいいの……
変な所大人な考えの私をどうか許してね?






その日からいつも授業をサボってどこかしらで眠っていたシュウ君が
授業に真面目に出席しだしたのはまた別の話。








(「穀潰し…最近は真面目に授業に出ているようで……貴方も漸く逆巻の長男としての自覚が出てきたのですね。これほど嬉しい事はありませんね」)




(「花子に中出しする為に俺は卒業しないといけないんだ」)




(「…………………穀潰し、ちょっとこちらへ」)



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