ホワイトデー〜ライト君の場合〜


「はーい花子ちゃんっ!ホワイトデーのお返しだよっんふっ♪」



「うわぁすごい!!普通だ怖い!!」



「ちょっとソレどういう意味!?」




愛しの愛しのライト君が満面の笑顔で差し出してきたホワイトデーのお返しに
思わず思っていたことを口にして叫んでしまえば心外だと言わんばかりにぷりぷりと怒り出しちゃうライト君は可愛いけれどだって怖いじゃないか。




「だってあのライト君が普通のお返しをくれるとかありえないよ明日って世界の終焉の日だっけ?」



「ねぇねぇ日頃の行いだとは思うけれどそれは流石に僕も傷付いちゃうよ」



「あ!?もしかしてこの中に媚薬が入ってるとか!?」



「ちょっと僕の話聞いてよ花子ちゃんの馬鹿!!何も入ってないよ!!」




まじまじと差し出されたそれを見つめつつも未だに怖くて受け取れないでいれば
そろそろ拗ねちゃいそうだったので慌てて受け取ってみた可愛い可愛いマカロンの詰め合わせ。
なんだ…媚薬も入っていないなんて本当にライト君どうしたんだろう後が怖すぎる。



じっと受け取ってもそれを注意深く見つめていればライト君は小さく困ったように笑ってそのままぎゅうっと私の体を抱き締めてしまったので
状況がよくわからなくて彼の腕の中でくたりと首を傾げてしまった。




「まぁそれ、確かに普通じゃないけどね。」



「え、」



「ホワイトデーにマカロンを送るのは“貴女は特別”っていう意味なんだ」




普通じゃないって言葉にやっぱりと私も言いたかったけれど
それは彼の穏やかな言葉にさえぎられて代わりに私は黙って彼の言葉の続きを待つことにした。
特別……?ねぇライト君、それはほんとう?




「永遠を生きることが出来なくて、いずれ僕を一人ぼっちにしちゃうのに大好きな花子ちゃん…傍にいるだけで胸が穏やかになって優しい気持ちになるんだよね……だからコレ、あげたくってさ。」




「らいとく、」



「ねぇ花子ちゃん、すきだよ。」




見上げた彼の表情は声色と同じで酷く穏やかで私はそんな彼の顔を見てじわりと涙を浮かべてしまう。
彼から出た「トクベツ」って言葉……それは酷く重くて苦しくてそれでいて愛おしい。




「あはっ♪泣いちゃった……やっぱりこんなの僕らしくないかな?」



「ううん、嬉しい…とく、とくべつ……うぅ、」



「あーもう、僕は花子ちゃんに笑ってほしかったんだけど……ほんと、愛するって難しいよねぇ」




少し照れ臭かったのか頬を桜色に染めながらおどけてしまう彼とは反対に私は嬉しくてくしゃりと顔を歪めついに涙を零してしまった。
けれどそれは彼の本意ではなかったらしく困ったように微笑みながらこれ以上私が泣いてしまわないようにってぎゅうぎゅうと抱きしめる腕に力を込めてくれるライト君が酷く愛おしい。




「ええと、この涙も……とくべつ、だから」



「え?」



「これと一緒!」



ぐずぐずと抱き締めてくれているのに止まらない涙に構わず彼の腕の中でそう呟けば
ライト君はよくわからないときょとんとした表情で私を見てくれたから
ごそごそとその腕の中で彼がくれた「トクベツ」を差し出して泣きながら微笑んだ。





「…………そっか、」



「ん、」



「ならしょうがないかぁ!花子ちゃんにはもっともっともーっと泣いてもらおうっと!!んふっ♪」




私の言いたい事を理解してくれたのか彼はにっこり笑って
またいつも通りの飄々とした口調で更にぎゅうぎゅう抱き締めてきちゃうので少し苦しい…




そう、私の流した涙もトクベツ…
ライト君の事が好きで好きで溜まらなくて、愛おしくて流したトクベツ。




私は普通の人間で覚醒だって出来ないから
絶対に最期はライト君を一人ぼっちにさせてしまうけれど
そんな先の事を考えて傷付く前にお別れしようなんて思えないくらいにだいすきで…
きっとそれはライト君もいっしょで……だから、




「ライト君、マカロンありがとう。大事に食べるね」




貴方にもらったなけなしのトクベツを大切にお腹にいれて
いずれ来る終焉の時に愛しい思い出として持っていこうと思うの。



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