ホワイトデー〜コウ君の場合〜
世界に一つだけ、コウ君に捧げる私のチョコが欲しいってオネダリされちゃって
彼のそんな可愛い笑顔に非常に弱い私は彼に言われるがままに一生懸命なれない手作りに挑戦して少しばかり不格好だけれど愛情を沢山込めたチョコを差し出した。
あの時の嬉しそうな、泣きそうな彼の表情は今でも忘れない。
「はい、花子ちゃーん。待ちに待ったスーパーアイドル無神コウ君からのホワイトデーだよっ!」
「わぁ……!」
3月14日、深夜コウ君に呼び出されて少し浮足立った足で彼の部屋を訪ねれば
すっごく可愛い笑顔で迎えられてしまってそのまま扉の前に立ち尽くしていた私の体は彼の腕によって中へと引きずり込まれてしまった。
いやいや別にお返し欲しさにチョコ渡したわけじゃないけれどあの日、私がコウ君にチョコを強請られて頑張って作ったあの日…
コウ君がすっごい…ヴァンパイアのくせに太陽みたいな明るい笑顔で「お返し!期待しててねっ」とか言っちゃうもんだから
馬鹿で単純な私は彼の言葉通りこの一か月めちゃめちゃ期待してコウ君は何をくれるのかなーって沢山想像力を働かせてしまっていたのだ。
「すっごく可愛い……」
「んふふ〜一か月俺にどんなプレゼント貰えるかなーって俺の事で頭一杯になってくれたお礼も兼ねてだからね♪」
「で、でもこんな可愛いの……私に似合うかな?」
部屋に引きずり込まれてそのままぎゅうと抱き締められながら私の手に差し出された箱をそっと開ければ
そこにはとても可愛らしいデザインの時計がひとつ。
余りにも可愛すぎてコウ君のセンスを疑うわけではないけれど私みたいなのが付けてしまってもいいのだろうかと戸惑う位だ。
「んーもう!似合うに決まってるでしょー!?俺の可愛い可愛い花子ちゃんを思い浮かべて一生懸命この俺が選んできたんだからねーっと」
「え、わ、わぁ……」
私のそんな言葉に少しむっとしてしまったコウ君はその可愛い時計をひょいっと取り上げてそのままそっと私の腕に着けてくれた。
やっぱりそれはとても可愛くて、でも私に似合わないとか思うよりも
何だかこれを付けたおかげでいつも以上にもっと可愛くなった気がする。
「ほらね?やっぱり君にすっごく似合ってる」
「えへへ……ありがとうコウ君!!」
私の感嘆の言葉にコウ君は満足そうに微笑んでくれるけれど
ここで思い浮かんだ純粋な疑問。
「…………」
「あ、その顔。なんでお返しが時計なのかなーって顔だね。」
じっともらった時計を見つめていればコウ君はやっぱり微笑んだまま
ちょいちょいと私の腕で光っている時計の秒針を指す。
「俺と花子ちゃんがおんなじ時間を歩めますよーにってね。」
「え、でも…コウく、」
穏やかな声色でそんな事…
普通のカップルなら嬉しいって喜べるはずだけれど私達は喜べないはず。
だって私は人間で
コウ君はヴァンパイア
同じ時間なんてどれだけ頑張っても歩めるはずがない。
その事実を言葉にしようとしたけれどそれはコウ君の唇によって塞がれてしまう。
あ、どうしよう…言葉にできなかった分、その事実が胸の内に入り込んで来て少し泣きそう。
じわりと涙を浮かべてしまえばそんな私を見て今度は困ったようにコウ君は微笑むのだ。
「こうして俺と君の時間が交差している間はさ……せめて、一緒にあるこーよ。」
カチカチと静かな部屋にコウ君の言葉と針の音が響き渡る。
それはきっと私が生きている限りはずっと離れず傍にいてくれると言うコウ君なりの決意表明。
嗚呼、私は彼をひとりぼっちにしてしまうのに、コウ君は私を一人にはしないつもりのようだ。
「コウ君、ありがと………ごめんね」
「ううん、俺が君の傍にいたいだけー…俺こそ、ごめんね?受け取ってくれる?」
コウ君を結局は孤独にしてしまうのにそんな私に貴方は満たされたまま逝ってしまえる権利をこうしてくれた。
それは酷く嬉しいけれど同時にごめんなさいって罪悪感が胸の内にじわりと広がる。
そんな私の罪悪感に気付いたコウ君はそれでも私の傍を離れるつもりはないと彼は何も悪くないのに優しい謝罪の言葉と共に彼の想いと一緒にこの時計を本当に受け取ってくれるかと問うてくる
もう…答えなんて決まっているしきっとわかっているのにわざわざ口に出させようとする彼は少し、意地悪だ。
「うん、時計もコウ君の気持ちも受け取る。…………大切にするね。」
心から出たその言葉に、
彼はやっぱり微笑んだけれど…
その微笑みは嬉しそうで、どこか寂しそう
嗚呼、私はあと何回コウ君と一緒にこの秒針を刻むことが出来るだろう。
出来れば…できれば一回でも多くと思ってしまうのは我儘だろうか。
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